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大きなものと自分――〈所有〉を手放し、〈共有〉へと広がる歌詞

更に歌詞を見ていこう。歌詞に関して、サビは三度繰り返されるが、そのとき歌われる歌詞は三度とも全く同じである。更に言えば他の箇所で二度歌われるパートも歌詞は繰り返しである。それによって、もはや最後のリフレインにいたっては初めて聴いたばかりのリスナーが、ともに口ずさむことすら可能なくらいである。おそらくCMソングとなった〈い・ろ・は・す〉のペットボトルのように、リスナーもこの曲を手軽にポケットにしまい、自転車に乗りながら口ずさめるようなコンパクトさを狙ったものではないだろうか。ただ、楽曲自体が〈A B サビ〉というような単純な繰り返しにならないよう、順番に並べると〈サビ A B サビ B サビ A〉と複雑な構成になっているのが気が利いている。

歌詞の内容に関しても、単純な男女の別れをテーマにしているというよりは、もう少し大きいものをテーマにしているように思われる。それは“満ちてゆく”においても共通しているもので、最初はラブソングを作ろうとしていたものの、最終的に自身のテーマの延長線上になったというコメントにもある通りだ。

そういった一つの愛の終わりや別れをテーマにしても、イメージが拡大しそれを取り巻く生や周りの世界そのものの大きな流れの中に位置づけられてしまう、というのは藤井 風の作風と言っていいものだろう。藤井 風の作品には、自身がなにか大きいものに包まれ、守られているというイメージが頻出している。大きな流れがあったら、それに抗うのではなく身を任せる。そして大きなものに包まれることで自分を更新していく、というようなイメージだ。これは例えば〈沐浴〉のように水の中に包まれることによって生まれ変わる、というモチーフにも表れており、氏のミュージックビデオにも頻出するものだ。例を出せば“grace”でのガンジス川での沐浴や、“燃えよ”における変身のモチーフなどが当てはまるだろう。

今作で出てくるのは〈風〉のイメージだ。〈真新しい風にまた抱かれた〉という歌詞には自身が大きな世界の一部であるということ、そこにいつか帰っていくというようなイメージがここでも提示されている。

この大いなるものと自分との対比、というのを更に敷衍してみるならば、藤井 風は自身の楽曲すら、自身の作品として所有するというよりは、多くの人々に歌い繋がれ、広がっていくこと、人々の生活や風俗の中でその一部として機能していくことを希望しているのではないか、という気がしてくる。

前述したようにこの曲の、外でなんとなしに口ずさんでしまうようなポータビリティの高さ、と同時に〈別れ〉をテーマにした今作は卒業後の上京や引っ越しといった、友や恋人と離れていくシチュエーションにぴったりである。“旅路”がいまや学校の卒業式で歌われる定番ソングとなったように、その後の人生を彩る楽曲として当楽曲は人々に愛される曲になるのではないだろうか。

 


RELEASE INFORMATION

藤井 風 『真っ白』 HEHN/ユニバーサルシグマ(2025)

リリース日:2025年3月13日(木)

TRACKLIST
1. 真っ白
2. 真っ白(Acapella)
3. 真っ白(Instrumental)
4. 真っ白(KOBY SHY Remix)

 


PROFILE: 藤井 風
1997年6⽉14⽇⽣まれ。幼少期より⽗の影響でクラシックピアノを始め、12歳の時に実家の喫茶店で撮影したピアノカバー動画をYouTubeに投稿したことが後に⾳楽の世界へ⾶び込むきっかけとなる。2020年5⽉、1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』(ー常に助け、決して傷つけないー)をリリース。2022年3⽉、2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』(ー全てを愛し、全てに仕えよー)をリリース。藤井 ⾵が⼤切にしているコアメッセージを掲げた2作品は、共にBillboard Japan総合アルバムチャート〈Hot Albums〉で1位を獲得。2022年、1stアルバム収録曲“死ぬのがいいわ”がSpotify Daily Viral Chartsで全世界73の国と地域にランクイン、うち23の国と地域で1位を獲得。Spotify⽉間リスナー数1,000万⼈を超えた初の国内アーティストとなった。2022年10⽉、2ndアルバムリリースを記念した〈LOVE ALL SERVE ALL STADIUM LIVE〉と題したスタジアムライブを、⾳楽ライブの開催は史上初となる⼤阪府吹⽥市のPanasonic Stadium Suitaで開催し、2⽇間で7万⼈を動員した。この模様はNetflixで全世界配信されている。2023年6~7⽉、11公演のアジアツアーを7都市で開催し、全公演ソールドアウト。2024年5⽉に⾃⾝初のUSツアー、8⽉に2⽇間で14万⼈を動員した⽇産スタジアムワンマンライブ(Netflixで全世界配信中)、10~12⽉にかけて全14公演のアジアアリーナツアーを10都市で開催した。

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