コロナ禍の鬱屈としたムードから本格的に抜け出した2023年、多くのアーテイストと同様に藤井 風も活発的にアクションを起こしていた。“死ぬのがいいわ”の世界的ヒットの勢いでアジアへと進出し、さらには海外アーティストとの交流も活性化させながら、これまで以上にオンリーワンな存在として異彩を放ち続けていたように思う。

そんな藤井 風の2023年を、ライターのs.h.i.に総括してもらった。2024年以降、さらなる飛躍が期待される藤井 風の1年間をともに振り返ってみてほしい。 *Mikiki編集部

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アジアツアーを経た新境地

藤井 風の2023年は、海外から日本のシーンへ大きな存在感を示す年だった。2022年は国内ツアーやフェス出演も活発で、年末の「NHK紅白歌合戦」への出場やそれと連動した特集番組、さらにはCMなどTV露出も多かった。しかし、今年に入ってからは、昨年末に始まった〈Fujii Kaze “LOVE ALL ARENA TOUR”〉が2月まで続いたあとは国内でのライブ出演はなし。6月からの〈Fujii Kaze and the piano Asia Tour〉のパフォーマンス(全公演が撮影可能で、現地観覧したファンがSNS上に動画を多数上げていた)を除けば、まとまった演奏を観れた機会は12月17日のYouTube生配信〈HAPPY HOLIDAYS 2023 - ねそべり配信〉(視聴者からのリクエストに答える即興弾き語り)くらいだったように思う。

その上で、藤井 風はファン以外の人々にも確かな印象を刻み続けてきた。これは、“死ぬのがいいわ”が昨年に引き続き〈海外で最も再生された国内アーティストの楽曲〉(Spotify調べ)となったのに加え、今年リリースされた新曲群がいずれも非常に優れた出来だったことが大きい。

まず、藤井 風自身の新曲ではないが、4月にアメリカ出身のシンガーソングライターJVKEの“golden hour(Fujii Kaze Remix)”が配信リリースされた。JVKE本人から直接のラブコールを受け、7億5,000万回超も再生させている大ヒット曲をリミックスした本曲は、元音源の美麗なコード進行を活かしつつ新たなメロディを組み込むリアレンジが見事。藤井 風とJVKEの歌声が似ていることもあって完成度は高い。数多あるこの曲のリミックス/カバーの中でも出色の出来と言っていいだろう。

そして、8月の〈FIBAバスケットボールワールドカップ2023〉の日本テレビ系・テレビ朝日系中継テーマソングとなった“Workin’ Hard”は、藤井 風の新境地を示す本当に素晴らしい作品だった。アリーヤやケンドリック・ラマーも想起させつつ独自の情感を描くこの曲は、〈結果なんぞかったりーわ〉〈Trust the process and be brave(プロセスを信じて勇敢であろう)〉といった歌詞や、労働歌的なエッセンスを抽出してみせるMVもあわせ、ポップソングがスポーツの世界大会に提供されることの批評性をきわめて高度に体現していた。