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あらゆる点で大きな転機となった“言葉にできない”

DISC-3には1979年12月から1982年6月まで、5人編成時代のオフコースによる8枚のシングルが収録されている。5人となって最初の作品である17thシングル“さよなら”は、彼らにとって最大のヒット曲となった。別れを描いた、せつなさの極地の曲であり、フォーキーなサウンドとエレクトリックなバンドサウンドが絶妙に融合している。

“さよなら”の次の18thシングルで、人間の根源的なテーマを内包した“生まれ来る子供たちのために”を発表するところからは、彼らが高い志を持って音楽に取り組んでいたことがわかる。派手さはないのだが、歌に乗せた思いが真っ直ぐ届いてくる。

この時期の彼らが発表した楽曲で特筆すべきなのは、多くの人に支持される曲を作ることと、伝えるべきことを託した歌を作ることのバランスが絶妙だったということだ。この後、彼らは“Yes-No”“I LOVE YOU”“YES-YES-YES”など、多くのヒット曲を生み出している。シングルのカップリング曲では、“この海に誓って”“Christmas Day”“君におくる歌”など、メンバーの共作曲が目立っているのも、5人編成のオフコースの特徴だろう。

23rdシングル“言葉にできない”は、オフコースの音楽の軌跡の中でも特筆すべき1曲である。まず、小田の歌詞が画期的かつ斬新だ。言葉にならない思いを〈la la la〉で表現しており、ある意味では、音楽の本質を究めた曲とも言えるだろう。〈la la la〉からはせつなさ、いとしさ、かけがえのなさなど、さまざまな感情が伝わってくる。この曲を鈴木の脱退という当時のバンドの状況と重ねあわせることもできそうだ。

カップリング曲の“君におくる歌”は、鈴木からバンドメンバーへの決別の思いを描いた曲と解釈することも可能だろう。もちろん普遍的な別れの歌としても成立しているところに、オフコースの音楽の懐の深さがある。オフコースを抜けた後の鈴木が精力的なソロ活動を展開していることが、脱退の理由を雄弁に示していたのではないか。バンドでなければ表現できないことがあるのと同じように、ソロでなければ表現できないことがあったのだろう。

 

オフコースのルーツが透けて見えるボーナストラック

このDISC-3にはボーナストラックとして、オフコースがデビューする前の1969年11月に開催された〈第3回全日本ライトミュージック・コンテスト グランプリ1969〉に出場した際の“Jane Jane”“One Boy”のライブ音源が収録されている。デビュー前の彼らの音楽を知るうえでもとても貴重な2曲だ。

“Jane Jane”はアメリカの3人組フォークグループ、ピーター・ポール&マリー(PPM)が1965年に発表した曲のカバーである。コンテストに出場した当時、オフコースも3人だったこともあり、アルペジオを多用したギターやコーラスワークなど原曲に忠実なアレンジとなっている。小田と鈴木と地主、それぞれの歌声の魅力を活かしたコーラスが秀逸だ。

“One Boy”はアメリカのポップスシンガー、ジョニー・ソマーズが1960年に発表した曲で、もともとはブロードウェイミュージカル「バイ・バイ・バーディー」の挿入歌として制作されている。オリジナルはドリーミーなスタンダードジャズだが、オフコースはアコースティックギターによって優美で素朴な歌の世界を再構築して、見事な歌とコーラスを披露している。

このボーナストラックの2曲からは、オフコースのルーツミュージックにポップス、フォーク、カントリー&ウエスタンなどがあること、そして彼らが一貫して歌とコーラスを重視してきたことがわかる。