小田和正らが在籍し、今に続くジャパニーズポップスに多大なる影響を与えたオフコースが、本日4月5日でデビュー55周年を迎えた。これを記念して、彼らが発表した全36枚のシングルを1つにまとめたメモリアルなアイテム『コンプリート・シングル・コレクション』がリリースされた。ボーナストラックを含む全75曲が収められた本作について、さらにはオフコースの特異で豊かな音楽性などをライターの長谷川誠に紐解いてもらった。 *Mikiki編集部
時代の流行に迎合しない、オフコースなりの音楽スタンス
オフコースのデビュー55周年を記念したCD 5枚組の『コンプリート・シングル・コレクション』は、レーベルの垣根を越えて、彼らが発表したすべてのシングルのA/B面を網羅した初の作品である。さらにボーナストラックとして、デビュー前のレアなライブ音源2曲も収録されている。永久保存版の貴重なコレクションであると同時に、オフコースの音楽活動の軌跡が刻まれた作品でもあるのだ。
オフコースは1970年にデビューして1989年に解散したバンドである。活動期間の中で、フォークブームやニューミュージックブームと重なっていた時期もあったが、そうした時代のムーブメントに迎合することなく、独自のスタンスを貫き通した。70年代後半からは数多くのヒット曲を生み、日本の音楽シーンを代表するバンドの1つとなったが、ブレイク後も、高品質の音楽を究めていこうとするストイックな姿勢は一貫していた。
デビュー当時は3人編成(小田和正、鈴木康博、地主道夫)で、その直後に2人編成(小田と鈴木)となり、1979年からは5人編成(松尾一彦、清水仁、大間ジローが参加)、1982年からは鈴木が脱退して4人編成となった。すべての時期に在籍していたのは小田だけだが、その時々のメンバーが刺激しあい、影響を与えあうことによってオフコースの独自の世界が確立されていったのは間違いないだろう。
『コンプリート・シングル・コレクション』はCD 5枚組の作品であり、ボーナストラック以外は時系列で楽曲が収録されている。本記事では、それぞれのDISCの注目すべき楽曲をピックアップしながら、オフコースの音楽活動の軌跡を辿っていく。
小田和正と鈴木康博、卓越したシンガーソングライター同士の絶妙なバランス
DISC-1には、1970年4月から1976年10月の間にリリースされた9枚のシングルが収録されている。初期のシングルでは、メンバーが作詞・作曲に関わっていないものもある。しかしそれらの作品からも彼ら独自の魅力は伝わってくる。
例えば、東海林修が作詞・作曲した3rdシングルの“おさらば”では、ビーチ・ボーイズ、フィフス・ディメンション、スリー・ドッグ・ナイトなど、当時の洋楽ポップスに通じるコーラスワークが多用されており、コーラスがオフコースの音楽の特徴の1つであることがわかる。透明感のある歌声と立体的なコーラスは、初期の頃から彼らの大きな魅力の1つだったのだ。
メンバーが全面的に楽曲制作に参加した最初の作品が4thシングル“僕の贈りもの”である。作詞・作曲は小田、編曲はオフ・コース(当時のグループ名表記)で、冒頭のコーラスから、彼らのみずみずしいフォーキーな世界が展開されていく。この楽曲をより印象深いものにしているのは歌詞である。〈春〉と〈秋〉を〈贈りもの〉と表現する小田の発想とセンスが素晴らしい。初期の代表曲にして、オフコースの原点とも言える楽曲だろう。
オフコースにとって初のヒット曲となったのは、7thシングル“眠れぬ夜”である。リズミカルなピアノとギター、印象的なシンセサイザーのリフで始まるポップな曲で、小田のせつない歌声が印象的だ。だが、歌詞を吟味すると、〈愛の不在による自由〉がモチーフとして描かれていることがわかる。美しいメロディ、清涼な歌声、優美なハーモニーでオブラートに包みながらも、人生のほろ苦さや無常観が滲みでてくるところに、彼らの音楽の独自性が表れているのではないだろうか。季節は巡り、時は流れて、過去は戻ることはない。オフコースの音楽の根底には、時間の流れを冷徹に見つめるまなざしが存在していると思うのだ。
“眠れぬ夜”のカップリング曲“昨日への手紙”の作詞・作曲は鈴木。この曲は朝の情景が描かれた曲で、小田とはまた違う角度から時間の流れを察知する感性がうかがえる。2人編成のオフコースは、小田と鈴木という2人の卓越したシンガーソングライターの絶妙なバランスによって成立していたのだろう。 2人の声に似た成分があることも、コーラスワークにおける大きな強みとなっていた。透明感を損なうことなく、深みや広がりが増していたからだ。