
活況に沸いた2000年代が終わり、2010年代以降はしばらくインディー・ミュージックにおけるホット・スポットの座を明け渡した感のあったNY。しかし近年、かの地では実験精神とDIYの美学に溢れるアーティストがふたたび相次いで頭角を現している。
なかでも耳を惹くのが、Y2Kのブルックリン・シーンからの文脈も想起させるダンス・パンクや先鋭的なエレクトロニック・サウンドの台頭。YHWH・ネイルガン、リップ・クリティック、デア、フロスト・チルドレン、ウォーター・フロム・ユア・アイズ……そして、その筆頭に挙げたいのが、このたび待望のセカンド・アルバム『Pirouette』をリリースするモデル・アクトレスだ。
「僕たちは会ってすぐにデス・グリップスへの愛で意気投合した。当時はアンチ・ミュージックみたいなサウンドを意識していたかもしれない。決まった音符やコードのない、すべてがノイズみたいな音楽をやりはじめたんだ」(コール・ヘイデン:以下同)。
そう語るヴォーカリストの言葉は誇張ではない。砕け散るノイズと不協和音、痙攣するようなインダストリアル・ビートが耳をつんざくモデル・アクトレスのサウンド・スタイル。それは、2000年代ブルックリンのポスト・ノーウェイヴと、アイルランドやサウス・ロンドンの現行ポスト・パンクを繋ぐミッシングリンク――という捉え方もできるかもしれない。
「ギラ・バンドは結成直後に間違いなくインスピレーションになっていた。ああいうサウンドが可能だということを教えてくれたバンドだから。ライアーズも音符がない感じという点では影響を受けていると思う。あと、僕にもっとも影響を与えてくれたのはビョーク。彼女は会話調から詩的なスタイルまでさまざまなヴォーカル・スタイルを取り入れていて、それを高度に切り替えている。またアントニー(アノーニ)・アンド・ザ・ジョンソンズも、言葉だけで広大な風景を作り出せる素晴らしいアーティストだと思う」。
Pitchforkで〈Best New Music〉を獲得するなど高い評価を得たファースト・アルバム『Dogsbody』(2023年)から2年。引き続きセス・マンチェスター(ボディ、バトルズなど)が共同プロデュースを務めた今作『Pirouette』は、ヘイデンいわく「朝6時にクラブのブラインドを全開にした瞬間のようなアルバム」。ノイジーでインダストリアルな楽曲も並ぶなか、ハウス・ミュージックのしなやかなダンス・フィールや余白を活かした構成が、彼らのサウンドに新たな陰影と奥行きをもたらしている。
「僕らのセットアップはかなりミニマルなんだけど、今回はドラム・キットにクラップスタックを取り入れたんだ。『Dogsbody』はサウンドデザインやビートの面でクラブ・ミュージックからのインスピレーションをたくさん反映させた。でも今回のアルバムでは、実際にクラブにいるという空間を表現することを意識した。そして、歌姫(Diva)っぽいアティテュードも入ってる。前のアルバムはもっと魔女みたいだったけど(笑)」。
メンバー共有のリファレンスとしてニコラス・ジャーの『Sirens』を挙げる一方、個人としてはグレイス・ジョーンズの『Hurricane』を聴き直していたというヘイデン。ゲイであることをオープンにしている彼にとって、今作は自身の幼少期を投影した作品だという。
「つまり、ゲイの青年がカミングアウトするまでの経験を振り返る物語になっている。自分が頭のなかで描いていたことが目の前で展開されているような、とても幸運な世界に生きる様子が描かれているんだ。そして自分自身に〈大丈夫、苦しみは乗り越える価値がある〉と伝えている。特に多くの人々がクィア・コミュニティーを攻撃しているいまのアメリカでは、できるだけ明確に声を上げることが重要。そうすることでいまの世界をより自分たちが望む世界に近づけることができたらいいなって」。
なお、今作を機にUS以外ではダーティ・ヒットと新たに契約。ヘイデンは来るマイリー・サイラスの新作にソングライターとして参加していることも発表された。さらなるブレイクが予想されるモデル・アクトレスにぜひ注目してほしい。
モデル・アクトレス
コール・ヘイデン(ヴォーカル)、ジャック・ウェットモア(ギター)、アーロン・シャピロ(ベース)、ルーベン・ラドラウアー(ドラムス)から成る4人組バンド。2016年、バークリー音楽大学に通っていたメンバーを中心にボストンで結成。2017年のEP『No』などを経て、2023年のファースト・アルバム『Dogsbody』は、Pitchforkなどで賞賛された。ジャック・ホワイトのNY公演への出演などを経て、5月2日にセカンド・アルバム『Pirouette』(True Panther/Dirty Hit)をリリースする。