©Fredrik Bengtsson

名前も見た目も品行方正とは真逆なスウェーデンのチンピラ集団が帰還! 歪んだ現代を撃ってきた6人の姿勢は変わらずも、その眼差しはまず穏やかな生活に向けられ……

 スウェーデンのヴァイアグラ・ボーイズは、2015年にストックホルムで結成された。2021年に創設メンバーのベンジャミン・ヴァレが亡くなるなど、構成はたびたび変化しているが、現在はセバスチャン・マーフィー(ヴォーカル)、リーナス・ヒルボリ(ギター)、ヘンリク・ヘッケルト(ベース)、トール・シェーデン(ドラムス)、エリアス・ユングクヴィスト(キーボード)、オスカー・カールス(サックス)の6人編成で活動中だ。

 彼らの知名度を高めた作品は、2018年のファースト・アルバム『Street Worms』。イラン系スウェーデン人のラッパー、ナディア・テヘランの作品などを扱う同国のエッジーなインディー・レーベル、イヤー0001から発表されたこのアルバムは、有害な男らしさや右翼ポピュリズムを批判する社会的メッセージが濃い内容だ。インダストリアルやガレージ・ロックなどの要素がちらつく、ざらついたサウンドをバックに、高尚すぎない平易な言葉選びを通して現代社会の病巣を風刺する歌詞は、彼らの秀逸な批評眼をアピールした。それらが支持を受け、NMEは同年のベスト・アルバムにランクインさせている。

 社会的メッセージは彼らの肝だ。2作目『Welfare Jazz』(2021年)、3作目『Cave World』(2022年)と作品を重ねるごとに社会批評の度合いを深めていった。とりわけ、収録曲“Big Boy”にスリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンを迎えた後者は、Qアノンといった陰謀論の問題にも踏み込むなど、自身の思想をより強調し、相反する者たちへの攻撃的姿勢を明確にした。歌詞では下品なフレーズを用いるなど不真面目なところも見られるが、目の前の現実を直視する姿は、この世界で生きる生活者としての誠実さが感じられる。

VIAGRA BOYS 『viagr aboys』 Shrimptech/Year0001(2025)

 そんな彼らの4作目となるニュー・アルバム『viagr aboys』を聴くと、バンドのモードが変わったことに気付く。マーフィーが「政治的なことはもううんざりだ」と語るように、本作はポリティカルなメッセージから離れることを念頭に作られた。社会へのレスポンスではなく、婚約者と過ごす時間に幸せを見い出したマーフィーの経験が基になっているという。その影響か、優しさが溢れるラヴソング“River King”など、過去作ではあまり見られなかったタイプの曲もある。だが、“Pyramid Of Health”では、SNS上などで増えている信憑性が疑わしい健康に関する投稿を揶揄したような言葉を紡ぐなど、変わらず現代社会の歪さを抉り出す眼差しもある。しかし、それは前作のように直接的な批判ではなく、自分の経験を描くなかで、その背後にある社会問題が自然と滲み出た結果だ。これまでとは問題の表れ方が違う。

 サウンドは、インダストリアル・パンクと形容できる荒々しい曲が多い。エレクトロニック・ミュージックの要素を多分に取り入れた前作と比べてシンプルな音作りが目立ち、初期の作風に近い。ドライな質感のドラムが耳に残る“Man Made Of Meat”はストゥージズや初期のストロークスを彷彿させ、“The Bog Body”は疾走感を隠さないパワフルなギター・サウンドが際立つロックン・ロール・ナンバー。バンドの音楽性を拡張した前2作からの反動か、本作のアレンジは装飾を抑え、ミックスではマーフィーのしゃがれた歌声を従来よりも強調している。メンバーが演奏したものをそのまま詰め込んだような生々しい響きを放つ音には、故スティーヴ・アルビニがレコーディング・エンジニアを務めたのか?とさえ思わずにはいられない。ピアノを中心とした音作りがたおやかな雰囲気を醸す“River King”はその象徴だ。

 『viagr aboys』は、サウンドや社会への視座など、多くの面で従来とは異なる表現方法を用いた深化作である。

ヴァイアグラ・ボーイズの作品。
左から、2021年作『Welfare Jazz』、2022年作『Cave World』(共にYear0001)

関連作やメンバーの近年の参加作を一部紹介。
左から、ファーザー・ジョン・ミスティの2024年作『Mahashmashana』(Sub Pop)、JJユリウスの2025年作『Vol.3』(Mammas Mysteriska Jukebox/DFA)、パー・ヴィーベリの2024年作『The Serpent's Here』(Despotz)