欧米で大活躍のソプラノ中村恵理、「シモン・ボッカネグラ 1857年版」録音の救世主に!

 ソプラノ中村恵理は、オペラ界の最前線に立つ日本人歌手。なのに録音が思いのほか少ない。「作品の中の〈個〉で居たいから。アリア集は出ないです」と彼女は宣言するが、そのピュアな声音を家でも楽しみたいと思ったりも。しかし、その中村がオペラのスタジオ録音に参加。ヴェルディの歌劇「シモン・ボッカネグラ 1857年版(初演版)」のアメリア役でいま注目を浴びている。率直な想いを訊ねてみた。

 「1年前の3月、〈10日後にある『シモン』1857年版の録音に参加してくれ〉と急に頼まれ、夜の10時過ぎに楽譜をPDFで送って貰いましたが、イエスかノーか即決をと言われ、悩みました。休みが全く取れないのに準備期間が約10日、カヴァーの人も居ないという重圧にも心が折れそうでした。でも、〈滅多に聴けない貴重なヴァージョンだからこそ、プロジェクトを成就させるべき〉と決心したのです」

MARK ELDER, HALLÉ ORCHESTRA, GERMÁN ENRIQUE ALCÁNTARA, 中村恵理 『ヴェルディ:シモン・ボッカネグラ(1857年オリジナル版)』 Opera Rara(2025)

 中村は当時を淡々と語るのみ。しかし録音時のヴィデオ・クリップを見るとシモン役のバリトン、アルカンタラやガブリエーレ役のテノール、アヨン=リヴァスもさることながら、中村の格別の烈しい歌いぶりがひときわ印象に強い。マイクの前でここまで燃焼できるソプラノだからこそ、録音も素晴らしい仕上がりに。娘らしい清冽さが声音に漲っている。

 「有難うございます。PDFを貰った翌朝、英国ロイヤルオペラ(ROH)の図書室で、古い印刷譜を閲覧しました。ハ音記号表記など読みづらい楽譜でしたが、当初参考にしながら、録音は最新の校訂版を使用しました。私はROHのジェット・パーカー ヤングアーティストプログラムの卒業生ですが、今回、共演者に同窓生が2人いたのでその点は心強かったです。1857年版と1881年版(現行版)の音楽はかなり違いますが、1857年版も隅々に美しさがあります。アメリアは生き別れの親シモンと再会を果たし、愛するガブリエーレとも結ばれますが、彼女のそうした〈人生の小さな願い〉が社会を大きく動かしてゆくのがこのオペラの面白さでしょう……。日本では新国立劇場オペラ研修所で学びましたが、恩師のコレペティトゥーア、マーティン・カッツ先生が、先日カナダのトロントまで来られ、私が歌う『蝶々夫人』をご覧頂き、詳しいアドバイスも下さったのです。20年も前のご縁が今に繋がっていると思うと本当に嬉しいです。オペラ界を支える歌い手の一人に成れればと思いつつ、これからも励みます」。

 


LIVE INFORMATION
GTシンフォニック・コンサート vol.5 オペラ『カルメン』演奏会形式

2026年2月1日(日)高崎芸術劇場 大劇場
開場/開演:13:00/14:00
https://www.gunkyo.com/concerts/1641/