ジャンルを越境する、アニメ「アンデッドガール・マーダーファルス」の音楽

 クラブ・ミュージックの名門レーベル、イルマから2008年にyuma名義のアルバム『SOUND MULTIPLY』でデビューし、現在はCM音楽やドラマ・映画の劇伴など多方面で活躍する作曲家・ピアニスト、yuma yamaguchi。その異色の経歴と〈職業作家〉としての経験が大いに活かされた作品が、19世紀末のヨーロッパを舞台に不老不死(かつ首だけ)の美少女や半人半鬼の存在が探偵として活躍するTVアニメ「アンデッドガール・マーダーファルス」のサウンドトラックだ。クラシック、ジャズ、ダンス・ミュージック、現代音楽……さまざまなジャンルが混然一体となった濃密な本作について話を訊いた。

yuma yamaguchi 『TVアニメ「アンデッドガール・マーダーファルス」Original Soundtrack』 FUJIPACIFIC MUSIC/FABTONE(2023)

 

最新のカッコいい音

――どのような経緯で今作の劇伴を担当することになったのですか?

「(音楽制作を手掛けた)フジパシフィックミュージックの方から直接ご連絡をいただいたんですけど、この作品では、いかにも〈THE アニメの劇伴〉といった方向にはしたくないということで、僕に声をかけていただいたみたいです。今回は基本、畠山(守)監督、音響監督の若林(和弘)さん、プロデューサーとやり取りしながら制作したのですが、最初の打ち合わせでお話を聞いたとき、物語自体が基本的に暗い雰囲気で進行するので、明るい曲は数曲のみ、あとはほぼヘヴィーでダークなものにしたい、ということだったので、ヴァリエーションを出すために工夫する必要があるなと感じたのが第一印象でしたね」

――アニメの劇伴の場合、メニュー表に沿って楽曲を制作するのが通例ですが、何か特別な指定はありましたか?

「最初の打ち合わせで監督や音響監督のイメージ、キャラクターの内容について1曲ずつ、全部で30曲ぶんを2時間半くらいかけてお話しして、そこで自分の過去曲やリファレンスを例示しながら、イメージを擦り合わせていきました。そのときに監督からブラック・カントリー・ニュー・ロードやコクトー・ツインズの名前が出たので、まずそういうものをトピックにして作ったのが、メイン・キャラクターの一人になる(真打)津軽のテーマ(“鬼殺し”)で。それが一発OKだったので、その後は僕が思ったように制作を進めて、基本NGもなく自由に作ることができました」

――ご自身のなかで今回の劇伴を制作するにあたり大事にしたことは?

「まず、劇伴なので作品に寄り添う音楽というのは大前提としてありつつ、万人の心を掴むメロディーを大切にしました。特にメイン・テーマの“アンデッドガール・マーダファルス”や、輪堂鴉夜のテーマ“不老不死”はそこを気にして制作しています。メイン・テーマはもともと〈推理シーンのときに毎回かかる曲〉という指定で、劇中でいちばん多く流れるという話だったので、耳に残るメロディーにしたくて相当悩みました。結果、同じ音のフレーズを繰り返すシンプルなメロディーになったのですが、そのぶん、コードを工夫して音楽的にIQの高い作りにしています。それとサウンド的にはオーケストラが基軸にはなっていますが、僕が劇伴をやる意味を考えて、他のサントラにはないくらいのヴァリエーションをつけるようにしています。例えば、〈オペラっぽいもの〉というイメージを伝えられた曲ではブルガリアン・ヴォイスのような要素を入れてみたり、〈ジャズ〉と指定された曲でもブレインフィーダーっぽい感じとオーケストラを融合させてみたりして。低音もしっかり出していますし、僕が思う制作当時の最新のカッコいい音色を取り入れた、音楽単体でも楽しめるもの、ということを念頭に置いて作りました」

――ジャンルを越境したミクスチャー感覚だけでなく、各楽器の演奏や音の鳴りにもモダンさを感じました。

「今回、弦と木管以外はすべて池袋のDedeというスタジオで録りました。音が本当にいいですし、オーナーの吉川(昭仁)さんはもともとドラマーでジャズにも造詣がある方なので、音楽的にも深いお話をしながら録音できるんです。録音初日は石若(駿)さんのドラムを録ったのですが、その演奏がヤバすぎて、終わったら3人でハイタッチしました(笑)」

――石若さんのほかにも今作にはさまざまなミュージシャンが参加されていますね。

「僕はミュージシャンを決めるとき、自分がいいなと思った人に直接コンタクトを取ってお願いすることが多くて。石若さんもCMの仕事などで何回かご一緒していましたし、Black BoboiのJulia(Shortreed)ちゃんも昔から仲が良くて、CMや映画『さんかく窓の外側は夜』の劇伴で歌ってもらったり、いぶちゃん(高井息吹)や草田(一駿)くんも家が近所なので、よく自宅のスタジオに来てもらっているんです(笑)。安藤(康平)さんはこの作品で初めてご一緒したのですが、それは安藤さんに吹いてほしい楽曲があったからですし、類家(心平)さんが参加した楽曲も、類家さんにトランペットを吹いてもらう前提で作った楽曲。なので劇伴の楽曲の書き方としては珍しいかもしれないですね」