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コラム

yuma yamaguchi『NotAnArtist』ポスト・クラシカルと電子音楽の狭間でポップを探求した新作を全曲レビュー

yuma yamaguchi『NotAnArtist』ポスト・クラシカルと電子音楽の狭間でポップを探求した新作を全曲レビュー

映画やTVドラマの劇伴、CM音楽の提供などで活躍してきた作曲家、yuma yamaguchi(山口由馬)。彼が約9年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム『NotAnArtist』をリリースした。同作には、七尾旅人、ラブリーサマーちゃん、角銅真実らがゲスト・ヴォーカルとして参加。彼らのフリーキーでパワフルな歌唱が、ポスト・クラシカルや電子音楽を基調とした先鋭的なサウンドに、不思議なポップさをもたらしている。〈アーティストではない〉と題されてはいるものの、全体を通してyuma yamaguchiという音楽家の作家性が濃く染み出ているアルバムだ。

その〈yuma yamaguchi的なる音〉を分析すべく、今回は1曲ごとのレビューを掲載。細田成嗣、藤堂てるいえ、鈴木英之介のライター3人が、各曲の音楽成分や特徴に迫った。 *Mikiki編集部

yuma yamaguchi 『NotAnArtist』 YUGE inc.(2021)

1. Bend and Shape

空間を切り裂くように伸びやかで、まるでブルガリアン・ヴォイスのような声がアルバムの幕開けを告げるのに相応しい冒頭曲。くぐもった響きのピアノがフレーズを繰り返すなか、ラジオのような音声、そして力強い歌声がポリフォニックに重なり合っていく。yuma yamaguchiが職業作家として手がけた97人の中高生による〈ポカリNEO合唱〉や、あるいは北京のフォーク歌手・小河が773人の〈啊(アー)〉を重ねた試みもそうだが、多数の声が空間の許容量を超えて集合するサウンドは時代の基調音となっているようにも感じる。 *細田成嗣

 

2. 塊(feat. Leo Uchida from Kroi)

重いピアノの打鍵音とその執拗なまでの反復が醸成する、ただならぬ緊迫感。それを背景にKroiのヴォーカリスト・内田怜央が、まるで英語のように聴こえる日本語のフロウでクールに畳みかけてくる。その二つの要素だけでも十分に楽曲として成立するだろうが、この曲は決してそんな基盤の上に安住しない。突如ピアノの耽美的なフレーズが現れたと思えば、その後もノイズや電子ビート、ストリングスなどが折り重なり、曲は姿形をめまぐるしく変えていく。こんなに変化に富んでいて濃密な3分13秒の体験は、ちょっと他に思いつかない。 *鈴木英之介

内田怜央(Kroi

 

3. ベガーズオペラ(feat. 七尾旅人)

アルバム序盤は強烈なインパクトの音の応酬に圧倒される展開が続くが、日本語詞が持つ叙情的な世界観でしばしの休息を与えてくれる本曲。とはいえ、中盤に差しかかるころには七尾旅人の歌唱とのインプロの応酬のようなやり取りにあっという間に耳を奪われてしまう。これはアルバム全体に言えることだが、ある種の緊張感が漲り、少ないながらも的確に配された一音一音が聴き手に刺さる。ヴォーカルがあるからポップスの体裁を保っているものの、まるで壮大なストーリーを彩るサウンドトラックのようにも響くという点では真にジャンルレス。 *藤堂てるいえ

七尾旅人

 

4. Small Circle

粒立ちのいい音によるキラキラしたフレーズで始まる、ささやかなピアノ曲。間を活かした弾きすぎないプレイとムラのない綺麗な音色、そして滲むような和声の響きが、ビル・エヴァンスのソロ・ピアノ作などを彷彿させる。11曲目の“Circular Path”と同じメロディーを使用しているのだが、ドリーミーで開放的なそちらに対し、“Small Circle”はメランコリーを湛えており、その印象は大きく異なる。調やアレンジ、音像を変えるだけで同じメロディーでも全く別物になってしまう、音楽というもののおもしろさを改めて実感させられる。 *鈴木英之介

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