シネパトグラフィー。本書のタイトルのこの言葉は映画の病跡学を表すべく作られた術語。言葉通り本書では精神科医、心理学者が映画の作品に残される映画作家の精神の痕跡を論じた稀有な内容となっている。執筆者も著名な斎藤環を筆頭に六名全員が精神科医、心理学等の専門家で、映画評論家は1人もいない。取り上げられた映画監督は、デイヴィッド・リンチ、クローネンバーグ、ジャン・ユスターシュ、ファスビンダー、キム・ギドク、ロブ グリエ……と名前を見ただけで理解できる癖の強い面子だ。各論はどれも興味深い内容だが、特に世界の精神分析家による映画論の動向を論じた〈ロールシャッハ・テストのように映画を観る〉は概論として秀悦。