©Tomoko Hidaki

第一子誕生という節目に生まれた、親子の時間が織り込まれた45分の組曲

 ピアノとトランペットの両方をメイン楽器として演奏し、作曲家としても才気煥発なところを見せてきた曽根麻央が、組曲形式のアルバム『8つの小品』でまたもや新たなフェイズに踏み込んだ。ジャズとクラシックを両またぎする作風で、優美な旋律とオーケストレーションの妙が印象的だ。

 「クラシックは昔から大好きな音楽のひとつで、ベートーヴェンなどをよく聴いていました。今回のようなラージ・アンサンブルは、仕事として書くことは多いし、僕は海外ではアレンジャーとしても認識されているんです。ただ、自分でこういう風に取りまとめてソロを作るっていうのはあまりやったことがなくて。今回、子供が生まれて2ヶ月ぐらいお休みを取っていたので、その間に曲を書きました」

曽根麻央 『8つの小品』 リボーンウッド(2025)

 第一児の出産は大きな出来事だったらしい。ベビーベッドの横にキーボードとラップトップを用意しておいて作業を進めたという。

 「とはいえ3時間ごとに子どもが泣いちゃうので、朝も昼も夜も関係なくて。逆に言うと、常に曲を書いていて必要な時に面倒を見たり、自分も寝たりして。今、作業がいいところなのに泣き出しちゃってみたいなことも、当然ありましたね(笑)。今回のアルバムの3曲目は、生まれてきたばかりの子供の目があまりに澄んでいて綺麗だったので、それに影響を受けて書きました」

 全体的に穏やかで包容力があるサウンドが展開されているのは、親としての子供を見る眼が反映されているのかもしれない。とはいえ、凄腕ギタリストの徳永康次郎が参加したルンバ・フラメンコやピアソラを想わせるタンゴ風など、曲調は多彩だ。なお今回、曽根はベストな状態でレコーディングするため、組曲をMCなしで演奏するライヴを行ってきたという。

 「実はスタジオで録る時、部屋の数の関係もあって、全部いっぺんには録れないので、パズル的にやらざるを得ないところもいくつかあって。ただ、リズム・セクションの人たちには、全部音楽を把握していてほしかったんですよ。だから、スタジオに入る前に、1週間このアルバムの楽曲だけを演奏するツアーをして、曲を完全に体に入れて、流れを理解してもらいました。ライヴでは、さすがに60分しゃべりなしはしんどいだろうから、ジャズのライヴとしては珍しくプログラムを配りました。そうしたらすごく反応が良くて、それでこの作品は大丈夫だっていうのを確信しましたね。アルバムの曲順通りの演奏をしたから、そのライヴの感覚をアルバムにも持ち込めている気がします。バンド感があるというか。それはクラシックみたいにノー・コンプレッサーじゃないから、パンチが効いているというのも関係しているかもしれません」

 デビュー作『Infinite Creature』ではピアノとトランペットの二刀流の登場を鮮烈に印象付け、続くリーダー作『Brightness of the Lives』ではトランペットを吹きまくり、2023年の『プレイズ・スタンダード』ではピアニストとしての側面を強く打ち出した。次々に新たな引き出しを開けてゆく曽根は現在、「ラテン・タンゴというプロジェクトでピアソラの曲を独自にアレンジしたり、ビゼーの『カルメン』などをコンテンポラリー・ジャズ的な形に落とし込む」など、興味深い模索を続けている。なお、配信は組曲のみだが、CDにはボーナス・トラックを3曲追加。当然というべきか、アナログ盤の発売も予定されているという。こちらも楽しみに待ちたい。

 


曽根麻央
音楽一家に生まれ育ち、父方の祖母は三味線奏者、母方の祖母はジャズ喫茶の元オーナーという環境の中、幼少よりクラシック・ピアノに親しむ。次第に即興演奏や音楽理論への関心を深め、8歳でルイ・アームストロングに影響を受けてトランペットを始める。9歳から地元・千葉県流山市を拠点に音楽活動を開始し、早くも日野皓正やレイ・ブライアントと共演を果たす。高校3年時には前田憲男、猪俣猛との共演を経てプロ・デビュー。トランペットとピアノの両方を卓越した技術で操る希有なアーティストとして、〈ジャズ二刀流〉と称されるマルチ・インストゥルメンタリスト。演奏家、作編曲家、プロデューサーとして国際的に活躍している。

 


LIVE INFORMATION
CD発売記念ライヴ

2025年11月8日(土)宮城・仙台 J’z
2026年1月14日(水)東京・丸の内 COTTON CLUB
https://www.maosone.com/

TOWER RECORDS インストアライヴ
2025年10月19日(日)錦糸町店 ※終了済み
2025年11月8日(土)仙台パルコ店
2025年11月14日(金)渋谷店