発見をもたらす『1969』と愚直なまでにストレートなジャズの『共振』
ブルーノート東京に近いこともあって、岡本太郎記念館にはよく行く。気分のすこぶる良いときは庭にある梵鐘〈歓喜の鐘〉を叩き、その中に頭を突っ込んでグワングワンと鳴る音の余韻をかみしめることもある。この鐘をクリス・デイヴやチャールズ・ヘインズがブッ叩いたらすさまじいだろうなと思ったのは数年前のことだが、そのころ、まったく別方向で、館長にして熱狂的なジャズ・ファンである平野暁臣氏が念願のジャズ・レーベル設立に動き出していた。その〈Days of Delight〉も、今回で第3弾リリースを迎えた。
Days of Delight Quintet 『1969』 Days of Delight(2019)
新録音アルバム『1969』のアーティスト名は、ずばり〈Days of Delight Quintet〉。中心人物であるベース奏者の塩田哲嗣をはじめとする名手5人が、世代を超えて集まったスペシャル・ユニットだ。そして内容は既に発売の2作とも共通する、モーダルで熱い、向こう見ずなまでにストレートなアコースティック・サウンド。あれ〈も〉これ〈も〉ジャズですよ、となりがちな風潮(個人的にはそれも良いと思うけれど)に、これ〈が〉ジャズなんだよ、と、決して居丈高にはならず、でもしっかり、とっくりと現在進行形のジャズ・ファンに伝えてくれる音といえばいいか。むろん、ジャズを聴き馴染んだ層にとっても、〈吉岡秀晃のピアノって、こんなにモード・ジャズに合うのか〉とか、〈曽根麻央のトランペットの中低音はやけに艶っぽいな〉など、いろんな発見をもたらしてくれるはずだ。
ウェイン・ショーター作“Fee-Fi-Fo-Fum”などカヴァー曲の丁寧かつ躍動感ある解釈も聴きものだが、個人的には“Tower of The Sun”の、一聴静謐な中にギラリと光るエネルギーに引き込まれた。もちろんこの曲名は岡本太郎〈太陽の塔〉にインスパイアされたものであろうが、なんというか、塔そのものが持つダイナミックな感じよりも、約50年間もあの場所でひとり立ち続ける孤独というか孤高の地位をおもんばかって創られた音のタペストリーという風情が漂っていて、そこが胸に迫るのだ。そして今後、〈Days of Delight〉レーベルから、“自分の中に毒を持て”“午後の日”“重工業”といった表題のジャズ曲が出てきたらさらに楽しいな、とも思った。
岡本太郎記念館の2階では不定期にジャズのライヴも開催されていて、そのときの壁には平野氏が所蔵する日本人ジャズ・ミュージシャンのレコード(むろんオリジナル盤だ)が飾られている。以前平野氏に取材したときも、どれだけ彼が多くのジャズ現場(ライヴ・スポットで連夜繰り広げられる日本人の生演奏)に通い、感動し、勇気づけられ、抜け出せないほどのジャズ中毒になっていったか、それを語る口調は熱を帯びるばかりだった。
同時発売のコンピレーション・アルバム『Days of Delight Compilation Album -共振-』は、70年代に録音された日本コロムビアのジャズ音源から平野氏みずから選び抜いた楽曲集。内容は、〈あっぱれ!〉という言葉を送りたくなるほど、モーダルで熱いアドリブが続く、愚直なまでにストレートなジャズばかり。氏は青春時代、こうした音をナマで浴びるほど聴いていたのである。それにしても渡辺香津美の隠れ名盤『エンドレス・ウェイ』(75年)からA面1曲目“オン・ザ・ホライズン”を引っぱってくるとは、センス冴え過ぎではないか。 *原田和典