2019.09.13

VARIOUS ARTISTS Days of Delight Compilation Album -共振- コロムビア(2019)

ブルーノート東京に近いこともあって、岡本太郎記念館にはよく行く。気分のすこぶる良いときは庭にある梵鐘〈歓喜の鐘〉を叩き、その中に頭を突っ込んでグワングワンと鳴る音の余韻をかみしめることもある。この鐘をクリス・デイヴやチャールズ・ヘインズがブッ叩いたらすさまじいだろうなと思ったのは数年前のことだが、そのころ、まったく別方向で、館長にして熱狂的なジャズ・ファンである平野暁臣氏が念願のジャズ・レーベル設立に動き出していた。その〈Days of Delight〉も、今回で第3弾リリースを迎えた。

新録音アルバム『1969』のアーティスト名は、ずばり〈Days of Delight Quintet〉。中心人物であるベース奏者の塩田哲嗣をはじめとする名手5人が、世代を超えて集まったスペシャル・ユニットだ。そして内容は既に発売の2作とも共通する、モーダルで熱い、向こう見ずなまでにストレートなアコースティック・サウンド。あれ〈も〉これ〈も〉ジャズですよ、となりがちな風潮(個人的にはそれも良いと思うけれど)に、これ〈が〉ジャズなんだよ、と、決して居丈高にはならず、でもしっかり、とっくりと現在進行形のジャズ・ファンに伝えてくれる音といえばいいか。むろん、ジャズを聴き馴染んだ層にとっても、〈吉岡秀晃のピアノって、こんなにモード・ジャズに合うのか〉とか、〈曽根麻央のトランペットの中低音はやけに艶っぽいな〉など、いろんな発見をもたらしてくれるはずだ。

ウェイン・ショーター作“Fee-Fi-Fo-Fum”などカヴァー曲の丁寧かつ躍動感ある解釈も聴きものだが、個人的には“Tower of The Sun”の、一聴静謐な中にギラリと光るエネルギーに引き込まれた。もちろんこの曲名は岡本太郎〈太陽の塔〉にインスパイアされたものであろうが、なんというか、塔そのものが持つダイナミックな感じよりも、約50年間もあの場所でひとり立ち続ける孤独というか孤高の地位をおもんばかって創られた音のタペストリーという風情が漂っていて、そこが胸に迫るのだ。そして今後、〈Days of Delight〉レーベルから、“自分の中に毒を持て”、“午後の日”、“重工業”といった表題のジャズ曲が出てきたらさらに楽しいな、とも思った。

岡本太郎記念館の2階では不定期にジャズのライヴも開催されていて、そのときの壁には平野氏が所蔵する日本人ジャズ・ミュージシャンのレコード(むろんオリジナル盤だ)が飾られている。以前平野氏に取材したときも、どれだけ彼が多くのジャズ現場(ライヴ・スポットで連夜繰り広げられる日本人の生演奏)に通い、感動し、勇気づけられ、抜け出せないほどのジャズ中毒になっていったか、それを語る口調は熱を帯びるばかりだった。同時発売のコンピレーション・アルバム『Days of Delight Compilation Album -共振-』は、70年代に録音された日本コロムビアのジャズ音源から平野氏みずから選び抜いた楽曲集。内容は、〈あっぱれ!〉という言葉を送りたくなるほど、モーダルで熱いアドリブが続く、愚直なまでにストレートなジャズばかり。氏は青春時代、こうした音をナマで浴びるほど聴いていたのである。それにしても渡辺香津美の隠れ名盤『エンドレス・ウェイ』(75年)からA面1曲目“オン・ザ・ホライズン”を引っぱってくるとは、センス冴え過ぎではないか。

原田和典

 


R&Bやファンク、ロックなどを融合させたニュー・ジェネレーションなジャズがシーンを賑わせる中、Days of Delight Quintetはオーソドックスなジャズをコンセプトとしている。しかしそのアプローチは現代的で、ジャズの伝統を次へ繋げていく意思を感じさせるものだ。テーマはシンプルながら、随所に見られるジャズのエッセンスを分断させるような遊び心は聴き手をクスリとさせてくれる。

また、二流ジャズに垣間見えるブルース・フィーリングの薄さも一切なく、それどころかブルースやソウル・ミュージックにおけるハート・ウォーミングな要素と、ジャズのハーモニーの緻密さが相まって凄まじいものになっている。世界に向けて発信したい一枚であり、レーベルとしても彼らのデビュー作としても大成功と言っていいだろうと思う。現代的なモチーフ・ディベロップメントを使いながらビバップにも精通するハーモニー・ワークや、空間を使い、ソロでもサイドの合いの手に身を委ねながらプレイをする曽根麻央(トランペット)に驚く。

大坂昌彦のドラムスは、ビートのドライヴ感とボトムに沈むフィール、アグレッシヴでいて絶妙なフィルインをぶつけながら場を熱くする。彼の敬愛するトニー・ウィリアムス、エルヴィン・ジョーンズへの愛がこちらに痛いほど伝わってきながらも、ジャズ維新の第一人者でもある彼自身の個性が本当に素晴らしい。

たまに音数だけ多くて中身がないコンピングを聴くことが日本では少なくないが、吉岡秀晃(ピアノ)のコンピング、及びソロはイマジネーションたっぷりで、後にコンテンポラリーなアプローチに繋がるモダンなサウンドがなんともたまらない。そして、全体を支えながらグルーヴィーでご機嫌なラインを弾き続けるのがベースの塩田哲嗣だ。

収録された計8曲中で特に印象深いのは、リー・モーガンのカヴァー“The Sidewinder”。小気味いいブルース・フィーリング満載のファンキーなピアノから始まるこの曲は、テーマを聴いただけでもただのカヴァーではないことがわかる。フィーリングは基本ブルースに置いた上でバー(小節)を越えながらも発展させていく曽根のソロは圧巻だし、みんなをグイグイ引っ張っていくような太田のソロは曲の雰囲気こそ違うが、ブライアン・ブレイドのフェロウシップでのマイロン・ウォルデンを彷彿とさせる。

塩田が手掛けたミックスは、60年代の極めてアナログな録音と最近のベン・ウェンデルなどのコンテンポラリーなジャズの質感を上手く捉えた、ジャズではほとんど類を見ないもの。そんな『1969』は、ジャズ・ファンにも、ブルース・ファンにも、より多くの人に聴いて頂きたい作品だ。

そして、同時リリースのコンピレーション『Day of Delight Compilation Album -共振-』にはハッとさせられた。僕が音楽を始めて先輩たちにいろいろと鍛えられていた頃、彼らがくれたアドヴァイスの元がこれらの音楽にあると感じたのだ。音楽に対するパッション、エネルギー、予定調和ではいかないアンサンブル……日本ジャズが築き上げてきた歴史がここには詰まっている。

カート・ローゼンウィンケルから連なるジャズ・ギターの歴史が変わりつつある時代の、いわゆる現代っ子の僕。6曲目に“Babylonia Wind”が収録されたギタリスト、杉本喜代志は初めて知ったのだが、アグレッシヴでエネルギーに溢れた、まるで叫びのようなギターは、一音一音自分の心に問いかけてくる。70年代は日本も世界と同様に音楽史を塗り替えた重要な時代だったのだと実感した。また、終曲の森山威男による“渡良瀬”を初めて聴いたのは18の頃だったが、いま聴きなおしてみるとエネルギーはさることながら、レイヤーやハーモニーすべてが現代ジャズへの序章のようにも聴こえる。

つねに変化し、融合していくのがジャズの特徴だが、過去、現代、そして未来へと繋げていけるような音楽を、僕自身この先も作っていきたいと再認識させられた一枚だった。

渡辺翔太

 


PROFILE:原田和典
米ジャズ誌「ダウンビート」、国際批評家投票メンバー。ミュージック・ペンクラブ(旧名称・ 音楽執筆者協議会)実行委員。幼少の頃から音楽、美術、文学、映画に熱中。80年代後半、文芸評論家で作家の故・高野斗志美(安部公房論、井上光晴論で知られる)氏の手ほどきを受ける。その後ジャズ雑誌の編集に携わり、2000年からは編集長を務めた。2005年に独立、フリーランスの立場で数々の著作を発表して現在に至る。また、千点に及ぶレコードやCDのライナーノーツを執筆し、無数のインタビュー取材を行なう。動植物をこよなく愛し、とくに猫を発見すると、その歓喜は最大限に達する。(※詳細はこちら

INFORMATION
書籍「コテコテ・サウンド・マシーン」
コテコテ仕掛人が、再び時代を震撼させる!
ジャズ〜ソウル〜ファンク〜ブルース〜邦楽を縦断する音楽ジャーナリスト、原田和典。
“Grooveの真髄”に迫る入魂の最新書き下ろしソロ著作。

原田 和典 コテコテ・サウンド・マシーン SPACE SHOWER BOOKS(2019)

第2弾 コテコテ・スーパースター列伝
9月14日(土)15:00~17:00
チャージ:1000円(ワンドリンク付き)
https://ameblo.jp/adirondackcafe/entry-12521286299.html

「コテコテ・サウンド・マシーン」&「トラベシア」発刊記念・共同自主企画日本語と相撲と能とコテコテ
9月28日(土)東京・渋谷LOFT HEAVEN
開場/開演:11時30分
チケット:2,000円(ドリンク別)
ライヴ:一噌幸弘(笛)+高木潤一(ギター)
DJ:浦風親方(DJ Sikisima)、鈴木並木(「トラベシア」発行人)、DJコテコテ
漫談:原田和典(『コテコテ・サウンド・マシーン』著者)
http://www.loft-prj.co.jp/schedule/heaven/125461

「ブルーノート・レコード ジャズを超えて」
パンフレットの執筆を担当したドキュメンタリーが、Bunkamuraル・シネマにて上映中。
https://www.universal-music.co.jp/cinema/bluenote/

 


PROFILE:渡辺翔太
88年2月29日、名古屋出身。4歳からピアノを始める。父・渡辺のりおの影響で音楽に慣れ親しむ。15歳の頃にジャズに興味を示し、2003年にダニー・シュエッケンディックに師事。2004年から演奏活動を始める。2005年にジャズ・ファンク・バンド、赤門に加入。2009年からジャズに傾倒。2010年、noonの『Once upon the summer time』のレコーディングに参加。2016年から井上銘率いるSTEREO CHAMPに在籍し、2枚のアルバムをリリース。また同バンドにてブルーノート東京、丸の内コットンクラブに出演を果たす。2017年にはものんくるの『世界はここにしかないって上手に言って』に参加。そして2018年、自身初のリーダー・アルバム『Awareness』を発表。現在、自身のトリオやさまざまなアーティストのサポートで、東京、名古屋を中心に全国で活動中。
https://www.shotawatanabe.info/

INFORMATION

渡辺翔太 Awareness リボーンウッド(2018)

10月2日(水)愛知・名古屋 Lion Theater
渡辺翔太(ピアノ)、熊代崇人(ベース)、橋本現輝(ドラムス)
開場/開演:18:00/19:30
前売2,500円/当日2,800円

40周年 プレイリスト
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