オダギリジョーが脚本・監督・編集・出演を務める映画「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」が、現在公開中だ。池松壮亮が演じる鑑識課警察犬係のハンドラー青葉一平には、相棒の警察犬オリバーが犬の着ぐるみを着たおじさんに見えてしまう(青葉以外には優秀な警察犬に見える)。そんな青葉とオリバーを軸にした物語は、どのシーンもツッコミどころ満載で実に面白い。そんな摩訶不思議なストーリーをさらに印象深くしているのが、劇中で流れる音楽だ。

劇伴を手がけたのは、EGO-WRAPPIN’の森雅樹。オダギリが創り上げた映画の世界観に、森の音楽がいい塩梅でマッチし、作品をより一層ムードのあるものにしている。今回、映画の公開とサントラの発売を記念して、森に話を聞いた。

森雅樹 『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE オリジナル・サウンドトラック』 Rambling(2025)

 

違和感のある曲もシーンによっては成立する

――今回、劇半を手がけることになったきっかけはなんだったのでしょうか?

「以前オダギリさんが主演されたTVドラマ(『リバースエッジ 大川端探偵社』)があったんですけど、オープニングとエンディング、それと劇中の音楽も作らせてもらいまして、それがきっかけでオダギリさんと知り合ったんです。それからしばらくして、オダギリさんがNHKでTVシリーズの『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』をやられた際にオープニングテーマでEGO-WRAPPIN’の“サイコアナルシス”を使ってもらったり、僕個人も劇中の音楽をやらせてもらったりして。そういった流れもあって今回の映画に繋がりました」

――そもそもこうやって森さんにインタビューさせていただく機会が得られたのも、私が入った浅草の飲み屋で、たまたま森さんが今回の映画の劇伴を店内のスピーカーに飛ばしてかけていらっしゃったのがきっかけで。映画を見る前に音楽だけを先に聴いたので、いろいろと想像することができて面白かったです。

「いろんなシチュエーションで、自分が作った曲を聴いてみたくてかけてたんです。そこで聴いたらどんな感じなのか。でもいい音楽って、どんなシーンにも合ってくるんですよ。最初はすごく違和感があるんだけど、音楽として聴いたらグッときて〈いいなあ〉となる。今回の劇伴も、なんかそういう感じであったらいいなと思って作っていました。 

そもそも脚本をあまり見ないで作ったんです。ぼやけた感じのお題目だけ出されて、そこから想像しながら作っていったんですけど、曲だけ聴くと違和感があるけど場面によっては成立するような感じです。たとえば、ホームレスのおじさんのバックでフリージャズがかかってる、みたいな」

――オダギリさんからは〈この場面にこんな音楽をつけたい〉など明確なオファーはあったのでしょうか?

「〈大体このシーンのあたりに音楽がほしい〉ぐらいの、かなりアブストラクトな感じでの依頼はありました。大半はほぼ即興で作ったんですけど、“Doggy Sue’s Bop”のように場面に合わせてしっかり作った曲もあります。

嶋田久作さんがTVシリーズの頃から続いて映画にも出てるんですけど、Doggy Sue’s Dinerっていうアメリカンダイナー風の犬カフェのマスター役なんです。いかにもロカビリー好きな役なので、そこでかかっている音楽はロカビリーなんじゃないかと。オダギリさんからも、〈その店のカセットやラジオでかかっている音楽はエルヴィス・プレスリーが活躍していた時代の雰囲気みたいに〉と言われたので、カルトな50年代風のロックンロールを僕とエゴのサポートメンバーでもあるTUCKERさんと一緒に作りました」

 

オダギリジョーは音楽への愛も強い

――主題歌はEGO-WRAPPIN’の新曲“phosphorus”ですが、サントラではボーカルなしのトラックが収録されています。

「“phosphorus”は、サントラでは“Crimson Door”っていう曲になるんです。これはピアノを自分で弾きました。はじめに自分でドラムを叩いて録って、それをループさせたものの上にピアノを乗せていったんですけど、今までで聴いたことのないダークなフレーズが降りてきたんです。そこから〈キタ!〉って感じでコードも降りてきて、ひとつめはこれ、ふたつめはこれと順番に出てきたんですよ。音の響きひとつひとつを確認しながら、のめり込んで作っていましたね」

――この映画のテーマを、この曲が代弁しているようにも感じました。

「ピアノの旋律がこの映画の肝になるというか、〈これがテーマだ!〉と思ったんですよね。それで〈これを是非エンディングでお願いします〉とオダギリさんに直訴したんです。

エンディングテーマは最初エゴの“The Hunter”というTVシリーズで使われていた曲が決まっていたんですけど、“phosphorus”ができたのでオダギリさんに〈これでいきたい〉と話をしたら、オダギリさんも柔らかい方なので〈それでいこう〉とおっしゃってくださいました」

――“phosphorus”を制作するにあたって、中納(良恵)さんとはどのようなことを話しましたか?

「いつも通りEGO-WRAPPIN’の曲として作った感じです。もしかしたらよっちゃんの中では映画の内容を噛み砕いていたかもしれませんが、特別僕になにか言ってくることはなかったです。お互いで答えを見つけていくのは面白いし、よっちゃんとはずっとそんな感じでやってきているんで(笑)」

――この映画は無理にわかろうとしなくてもいいというか、その不可思議な感じを楽しむ映画だなと感じました。一貫して映像の動きに独特なリズムを感じたのと同時に、森さんの音楽は相反するように映像に合わせすぎていないというか。その絶妙なコンビネーションが映画をさらに印象深いものにしているなと思いました。

「その違和感がオダギリさんとは合うんですよ。オダギリさんは映画への愛も強いですけど、音楽への愛も強いんです」