音楽の印象を伝えることは難しい。耳はあらゆる音響現象に開いているのに、とても個人的な器官のようだ。音楽にまつわる様々な現象は十分に言語化されて、社会一般に通じるほど規範化され、共有できてはいない。それでも人が音楽について書きたくなるのは、誰かが演奏する作品やその演奏に感動しそのことを誰かに伝えたいと思ったり、自分の制作した音楽を聴いて欲しいと思うからだろう。本書では、書き手が音楽家であるところから始まる。自らの音楽活動の可能性を説き、その共感を広げ、関心を集めるための文章術。音楽家は過去の音楽だけでなく、未来の音楽を説明することも求められている。