
近すぎず遠すぎない距離感を描く絵
――イギリスでの経験は、現在の作風に影響を与えていると思いますか?
坂内「イギリスの景色には大きな影響を受けました。例えば、曇りの日に若者が着古したパーカーやセーターを着て歩いているような光景です。本人たちはくたびれたセーターを仕方なく着ているのかもしれませんが、そうした一つひとつの光景が印象的で記憶に焼きついています。その経験が僕の作風に自然と反映されていると思います」
ジュン「坂内さんのイラストには、描かれている人同士、あるいは人と風景とのあいだに独特の距離感があるように感じます。これもイギリスでの経験によるものですか?」
坂内「そうかもしれません。イギリス滞在中、店でもマーケットでも丁寧な距離感で接してもらえた記憶があって、まさに紳士な国だと思ったり。
それ以外だと、イギリスではないですが、ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』という映画の、手持ちカメラで撮影された映像の距離感が心地よかったんです。遠すぎず、近すぎない。奇抜なアングルや派手な演出もない、今そこにある出来事を少し離れて眺めているような……そんな感覚が作風に影響していると思います」
ジュン「坂内さんの描く人物には影があったりなかったりして、僕はそこが好きなんです。現実を少し逸脱しているというか、自分が今いる世界とは少し違う世界。不穏で揺らいでいるような世界なんですけど、心が引き込まれます」
坂内「そこは絵やイラストレーションの面白いところだと思います。現実をそのまま表現してもしなくても自由というか、自分の理想に寄せることができるというか。世界観が作家に委ねられている割合が多い気がします。感情を込めたければ影の長さで強調したり、影をなくすことで存在を際立たせたり、そういうコントロールができるんです」

音楽から生まれる絵、絵から生まれる音楽
ジュン「コントロールする時、それは感情からくるのか、それとも視覚的な感覚からなのか、どちらですか?」
坂内「どちらもあるように思います。今回のように、まず音楽を聴いて、そこから湧いてきた感情をもとに〈ここをこうしたい〉という強弱をつけることもあります。視覚的にこうしたほうが伝わるかなと意図的に描く場合もありますが、ノリやその場の感情に任せて描いてしまうことも多いです」
ジュン「切り絵の手法で制作されているのも特徴ですよね。ご自身の作風は、どのように確立されたのでしょうか?」
坂内「アレックス・カッツという画家がいて、彼が若いころに発表した『Collages』という画集をたまたま本屋で見つけたんです。それにインスパイアされて、〈自分の感覚でやってみたい〉と思ったのがきっかけでした。その時の作品を展示したら、みんなが面白がってくれて」
ジュン「切り絵に惹かれた理由はありますか?」
坂内「絵の具で塗ると境界線が曖昧になるんですね。切り絵だと色の境界線がスパっと別れて立体感が出ますし、そういうエッジの効いた絵を描きたいと思ったんです。
それと、絵をレイヤーで考えられるというか、強調したいものを手前にするなど紙の重なりを立体感で表現できることも面白い。絵の具って値段が高くて大きな面を塗るのに躊躇するんですが、紙は一枚で大きな面を埋めることができるのも魅力です(笑)」

――ジュンさんは以前、ビジュアルアートに関心があるとお話しされていました。イラストなどからインスピレーションを受けて曲を作ることはありますか?
ジュン「作詞はそうですね。作ったメロディーから頭に浮かんだ絵をもとに歌詞を書くんです。すでにその絵ができていて、その中にどんなストーリーがあるのかを考えながら作詞しています」
――坂内さんは音楽から具体的なイメージが湧いて、それを作品に落とし込むことはありますか?
坂内「よくあります。クライアントワークはお題があるので、それに応えていく形になりますが、展示など個人的に描きたい絵を描くときは、音楽を聴いた時の感情や衝動を頼りにすることが多いです」

ジュン「音楽からは、どんなイメージが湧くんですか?」
坂内「過去の断片的な記憶や自分の理想のようなものです。音楽を聴いて感情が高ぶると、あの時こんな気持ちで道を歩いたなとか、あの人とあんなやり取りをしたな、風景を眺めたな、と思い出すんです。それは誰もが経験するなんてことないイメージですけど、だからこそ絵を見た人の心象風景や記憶にリンクするのかもしれません。
それと、僕の絵に登場する人物は小さい場合がほとんどで、ちょっとしたパーツの配置や角度で全く違う印象になるんです。音楽を聴きながら描いたほうが、自分の気に入った形やポーズになるし、その感情が反映される気がします」