
街を歩けばたくさんの〈素敵な偶然〉に出会える
――ジュンさんは以前、オーストラリアの音楽シーンの中で自分らしさと向き合ううちに日本文化の魅力を再発見したとお話しされていました。坂内さんは、日本人としてのアイデンティティを意識することはありますか?
坂内「クライアントワークだと創作プロセスも決まっていますし、とにかく〈良いものを作りたい〉という気持ちが先行しているので、自分の国籍や文化的アイデンティティを強く意識したことはないですね。
それでも、海外に行った時は生活スタイルや食事など日本の良いところを感じることができましたし、それが作品に滲み出ているかもしれません」
ジュン「坂内さんは生まれも育ちも東京、初の個展も〈東京〉と題されていますが、作品のインスピレーションを得たのはイギリス、というのも一つのパラドックスで面白いと思います」
坂内「確かにそうですね」
ジュン「ところでイギリス滞在中はどのように過ごしていましたか?」
坂内「まだ仕事をしていなかったので出かけたり遊んだりするお金も無かったですし、時間があれば部屋にこもって絵を描いてました。そのころはエゴン・シーレが好きで大きなスケッチブックとペンを買って、人物画を多く描いていました。
それと、街歩きをよくしましたね。観光というより、日常生活を送っていたと思います。何時間もかけて隣町のスーパーに行ったり、そこでチャリティーショップを見つけたり。今思えば贅沢な時間だったと思います」
ジュン「大切なことだと思います。やはり車や電車などに乗っている時より、街の中で自分の足を動かして動き回る方が、たくさんのセレンディピティに巡り会えると思います」
坂内「僕もそう思いますね」

フィジカルなメディアは気持ちを高ぶらせてくれる
――ジュンさんの新しいEP『色褪せたフォトグラフ』はカセットでもリリースされています。坂内さんは普段、カセットやレコード、CDなどフィジカルで音楽を聴くことはありますか?
坂内「聴きます。絵についても言えることですけど、ものとしてそこにあり、存在を確認できることが自分の中では大切なんですよね」
――現在は、デジタル配信などで音楽を聴くことが主流ですが、イラストレーターとしてはデジタル化の波から影響を受けていますか?
坂内「音楽って、そんなにデジタル化が進んでいるんですね」
ジュン「そうですね。時代が変わったと感じます。そうした状況の中でも、フィジカルの重要性が改めて認識されていると思います。今のフィジカルの役割は、音楽を聴くためのメディアというより、むしろ記念品のような存在だと感じます。手に取ることで、気持ちをさらに高ぶらせてくれるというか。だからこそ、アートワークの重要性も高まっていると感じますね」
坂内「フィジカルが気持ちを高ぶらせてくれるというのは共感します。僕が切り絵で作品制作や展示を行うのも、〈そこに実際に存在するもの〉としての表現を見てもらいたいからかもしれません。
音楽についてイラストを描く立場から言うと、配信だとアートワークが小さくなっちゃうじゃないですか。あれは調整が難しいですよね。少し描き込んだだけで、モニター上では何の絵なのかわからないビジュアルになってしまうというか……。ただ、色の調整や修正などはデジタルでないと難しい作業もあって、デジタルには良さと難しさ、両方あると思います」