やわらかな夜に香るホットミルクのように聴き手の日々に幸せを添えてきた男女デュオが活動満了を宣言。2人が抱いていた想い、これから向かおうとしている本当の光とは?

 ナガシマトモコ(ヴォーカル)、藤本一馬(ギター)によるユニット、orange pekoeから最後の作品となるベスト盤『orange pekoe All Time Best 2001-2025 春夏秋冬、日々詠歌』が届けられた。10月に行われた高崎音楽祭で〈活動満了〉を表明した2人。新曲“It’s Dawn”を含む本作には、これからもorange pekoeの音楽が四季を通じて寄り添っていけるようにと、春・夏編(Disc-1)/秋・冬編(Disc-2)に分けられた30曲が収められている。

 「選曲の基準は、ライヴでよく演奏していた曲。〈春から夏にライヴをやるならこんなセットリスト、秋から冬だったらこういう流れがいい〉みたいな感じです。orange pekoeはライヴを大事にしてきたし、作品がなかなか作れない時期も、みなさんと音楽を共有して、パワーやエネルギーを交歓してきた。ジャケットに写ってるレコードは、orange pekoeの曲名をレーベルにしています。一馬も私も〈いろいろあったけど、やり切った〉という清々しい笑顔の写真(笑)」(ナガシマトモコ)。

orange pekoe 『orange pekoe All Time Best 2001-2025 春夏秋冬、日々詠歌』 ソニー(2025)

 インディーズ期から現在まで、四半世紀に及ぶキャリアを追体験できる本作。中心を担っているのはやはり、“太陽のかけら”“やわらかな夜”“Happy Valley”などファースト・アルバム『Organic Plastic Music』(2002年)からの楽曲だ。90年代後半~2000年代前半のクラブ・ジャズとオーセンティックなジャズやラテンを結び付けた音楽性、セルフラヴや共生といったテーマを含むポジティヴな歌詞。それは当時のJ-Popシーンに新たな風を吹かせると共に、orange pekoeの名前を世に知らしめた。

 「ジャズであり、ポップスであり、ポジティヴなメッセージもあって、ダンサブルだけど繊細さもあって……というのが最初の頃のorange pekoeだったのかなと。そのあたりの曲が出来たとき、藤本一馬のメロディーやサウンド、ナガシマトモコのパーソナリティが合わさったときの最適解がわかった! みたいな感覚がありました」(ナガシマ)。

 「デビュー当初の曲はいま聴いても〈けっこういいな〉と思います。まとめ方や仕上げ方については〈もうちょっとこうしたらいいのに〉というところもたくさんあるんですけどね(笑)。曲自体だったり、それぞれの音の素材はすごくいいなと」(藤本一馬)。

 その後も、ブラジルとビッグバンド・ジャズが融合した“空の庭”、〈わたしのぜんぶ 君をあいしてる〉というフレーズが印象的なバラード“selene”など、普遍的な魅力を備えた楽曲を発表。ナガシマ、藤本のミュージシャンシップの向上と共にみずからの音楽性を深めてきた。「プロデュースに関しては、あまり人に委ねず、本当に2人だけで作ってたんですよね」(ナガシマ)という純度の高さもorange pekoeの魅力だろう。

 「ジャズを掘り下げたい時期があったり、バキバキの打ち込みをやってみたいときがあったり、いろんな変遷がありました。楽曲自体もよりシンプルなメロディーを作りたくなったり、ハーモニーを動かして壮大にしたいこともあったり。ベスト盤の曲を聴くと、本当にいろんなやり方にトライしてきたなと感じますね。でも中心にあるのはやっぱりトモコの歌声と歌詞。最後にベスト・アルバムを出しますと発表してから、〈歌詞に救われてきました〉という声をたくさんいただき、彼女が音楽に込めてきた想いやエナジーを再確認しました」(藤本)。

 2015年以降はそれぞれのソロ活動に重点が移り、orange pekoeはライヴが中心に。今年は久しぶりのアルバム制作に入っていたのだが、〈2人で作る音楽はやり切った〉という結論に至った。

 「デビューした頃に〈これからは物質主義ではなくて、心の豊かさへシフトしていくはず〉と思っていたんです。カフェ・ブームが始まったり、自分のために時間を使うこと、ささやかな幸せを感じることの大切さにみんなが気付きはじめていたというか。orange pekoeでも楽曲を通して、心の豊かさ、美しさを伝えたかったんですよね。いまは〈自分をケアする〉〈自分の幸せを求める〉ということが当たり前になった。そうなったとき、逆に〈orange pekoeが表現してきたことは逃避として導いてしまうこともあるんじゃないかな〉という気もしてきたんです。いま私が思っているのは〈闇と光をしっかり見たうえで、それでも自分にとっての本当の光を選べますか?〉ということ。そうやって次のフェーズに向かうんだと感じたときに、orange pekoeの役目は終わったんだとはっきりわかったんですよね。ここでいったん満了して〈みんなで次に行こうよ〉という気持ちです」(ナガシマ)。

 ナガシマトモコ、藤本一馬によるorange pekoeはいったん終わるが、このベスト盤『orange pekoe All Time Best 2001-2025 春夏秋冬、日々詠歌』に収められた楽曲はこれからも我々の日常を照らし、ポジティヴな波動を伝えていくはず。これからorange pekoe の音楽に出会う人たちも含め、幅広いリスナーと一緒に2人が生み出した音楽を共有したいと心から思う。

orange pekoeの作品を一部紹介。
左から、TAMTAMとの2025年のスプリット・7インチ『Summer Sun/Love Is Stronger Than Pride』(Insense Music Works)、2012年のカヴァー集『tribute to Elis Regina』(Playwright)

メンバーの近年の作品を一部紹介。
左から、Tomoko Niaの2025年のEP『UCHI』(Wisdom Child)、藤本一馬と林正樹の2025年のデュオ・アルバム『Unfolding in Time』(rings)

 


LIVE INFORMATION
orange pekoe with the Big Band Party Night FINAL!!!

2026年3月1日(日)神奈川・横浜 KT Zepp Yokohama
開場/開演:16:00/17:00

■チケット料金
全席指定:9,800円(税込)
※ご入場時、別途ドリンク代が必要です
※未就学児入場不可/お1人様4枚まで