my native lands – いくつかの〈私〉の場所

 藤本一馬の前作『Dialogues』(12年)の最後には、“My Native Land”というギター・ソロ曲が収められていた。新作『My Native Land』は、“My Native Land II”で始まり、“My Native Heart”で締め括られる。キーワードは、ずばり〈Native〉だ。

 「前作の“My Native Land”はアルバムを作り終える頃に出来た曲なんですけど、数年前から〈Native〉ということを考えるようになりました。ここ数年、アルゼンチンやブラジルのミュージシャンと共演したり、外国を旅する機会が多かったことも要因ですけど、自分にとって〈Native〉とはいったい何だろうと」

藤本一馬 『My Native Land』 キング(2014)

 〈Native〉といえば、藤本は以前からアメリカン・ネイティヴの習俗や文化に関心を示してきた。ファースト・アルバム『SUN DANCE』(11年)の表題曲は、ネイティヴ・アメリカンの儀式にインスパイアされて生まれたインスト。そして藤本は数年前、ネイティヴ・アメリカンの聖地とされているアリゾナ州のセドナを旅して、大自然に感銘を受けた。この頃から大局的に自分自身のことを見つめるようになったという。

 「僕は関西生まれの日本人ですけど、たとえ人種や国籍は違っていても、地球上の人たちはすべて人類ですよね。そして僕は、世界中の色々な情報を簡単に手に入れたり、世界のどこにでも移動できる東京近郊で暮らしている。今回のアルバムには、こんな自分の感覚が反映されていると思います」

 この発言通り、新作には藤本の音楽的志向のみならず、一人の人間としての世界観も反映されている。この点をもっとも象徴しているのが、日本的な旋律が随所に織り込まれている“My Native Land II”だ。

 「ソロで活動し始めた頃から日本の音楽を聴くようになりました。武満徹さんの作品、山本邦山さんと菊地雅章さんの共演盤、山下和仁さんが日本の曲ばかり演奏しているアルバム……あとは貴志康一(1909-1937)さんですね。貴志さんの作品には日本的な旋律がかなり取り入れられていて、すごく刺激を受けました」

 アルバムの中には、中近東~アジア風味が濃い“Night Spirit”という曲もある。こんな『My Native Land』は、世界中の情報の集積地である大都市から生まれたインスト集である。その意味で、藤本にとっての“My Native Land”のひとつは、東京だ。そして彼には、まだ見ぬ“My Native Land”がある。若い頃にアジアとヨーロッパを放浪した詩人の金子光晴は、谷川俊太郎から「自分の詩に日本的なものを感じるか」と問われ、「日本人とは言わないが、私がいる」と答えた。藤本が目指しているのは、この境地だろう。