レコード店で『NIA』と同じコーナーに並べて置かれるべき作品は、ロイ・ハーグローヴ率いるザ・RH・ファクターホセ・ジェイムズのアルバムだろう。『NIA』は、orange pekoeナガシマトモコの初のソロ・アルバムだ。全曲をNiaと一緒にプロデュースし、単独で作曲、アレンジしているのは、ジャズ・トランペッターの黒田卓也。このアルバムには、黒田と同じく、ホセ・ジェイムズのバンドでも活動しているキーボード奏者クリス・バワーズも参加している。

Nia NIA キング(2014)

 「orange pekoeの音楽は、藤本一馬くんと私の両方がやりたい音楽の集合体ですが、私個人は昔からソウルが大好き。でも、そうした側面はソロで表現すべきだと思っていたので、数年前から準備を進めていました」

 Niaがソウルの魅力に本格的に目覚めたのは、大学1年生の時。藤本と出会った大学の軽音楽サークルの先輩からスティーヴィー・ワンダーの『キー・オブ・ライフ』を聴かせてもらったことが、きっかけだった。

 「それ以前も私は、ラジオから流れていた90年代初めのR&Bを聞いたり、マイケル・ジャクソンジャネット・ジャクソンの曲に合わせて踊っていましたけど、70年代のスティーヴィーのアルバムやダニー・ハサウェイの『ライヴ!』は、全く違ったものとして聞こえた。サウンドの質感からグルーヴまで色んな点が違っていて、音だけでかっこいいと思いました」

 こうした原点は、『NIA』の音楽的方向性にも影響を及ぼしている。というのも、これは、生演奏主体のネオ・ソウル的プロジェクトだからだ。

 「私はエリカ・バドゥシャーデーが好きだし、シンガーとしての自分にも、こういうジャジーなネオ・ソウルがいちばん合っていると思います。ただ、英語で歌うか日本語で歌うか、この点に関してはぎりぎりまで悩みましたけど、私としては曲のグルーヴを最優先させたかったので、英語で歌うことにしました」

 『NIA』は、黒田に作曲を依頼してから約半年後にほぼ完成。バンドの録音自体は、ブルックリンでわずか2日間で行われた。だが、シンガーとしてのNiaはorange pekoeの活動を通じて形成されてきたわけだし、彼女とソウルの出会いも大学時代。その意味では、過去十数年間の軌跡がひとつの実を結んだプロジェクト、と言っていいだろう。

 「私自身もそう思います。この十数年間は常にそれまでのorange pekoeを超えたいと思って活動してきて、その課程の中で自分自身を何度か見つめてきました。そして今回『NIA』を作ったことによって、自分のことをよりクリアに見極めることができた。だから今は、とてもハッピーです」