浮(読み:ぶい)のライブが始まると、いつの間にか目を瞑っていて、彼女の歌だけぽつりと存在している暗闇の世界に身を投じたくなる。このたびリリースされる『草蔭』は、その没入感が見事に収められた京都・岡崎のスペース〈しばし〉で録音されたライブアルバムだ。
シンガーソングライターである米山ミサのソロプロジェクトとして、ガットギターの弾き語りスタイルで2018年より活動を開始。コントラバス奏者の服部将典、ドラマー藤巻鉄郎とのトリオ〈浮と港〉のアンサンブルで制作された2022年発表の2ndアルバム『あかるいくらい』も話題を呼んだ。
本作はそれ以来となるアルバムだが、全国各地を年中ライブで回り、歌い続けたこの3年間の歌の変化や成長を切り取った、浮の本寸法と言える全10篇。現在制作が佳境に差し掛かっている3作目のオリジナルアルバムには入らないという、新曲やカバー曲も収録されている。
米山は、まとう空気は神々しく時折翳りすら感じ取れるのに、ひとたび接すればいつもうららかでフレンドリーな人だ。彼女が愛する街、吉祥寺で行った穏やかなお喋りをお届けする。
全国各地の〈帰る場所〉
――ここ数年は年中ライブで全国各地を飛び回っていて、どんどんプロの旅人になっていく様子を見ていました。
「国内であればかなり極めつつあるかも。どこにでも行ける精神力はつきましたが、体力はやっぱり落ちてきます。なので一時期みたいに2週間ツアーにずっと出るようなことはやめて、最近はちょこちょこ家に帰るようになりました」
――訪れた地域の中で、お気に入りのところはありますか?
「その場所に〈行く〉というより、〈帰ってきたな〉という感覚になる場所ができてきましたね。長崎県の島原半島や、岡山の総社、そして沖縄……。何回も呼んでいただく中でお話ししたり、一緒にご飯を食べたり、友達になれたなと思う人が増えていく。そしたら次に行く時、その人たちの顔が浮かんできて、またこの場所に戻ってこられたという気持ちになるのが嬉しいです」
――そのように帰る場所や友達が全国に増えていくことは、米山さんが音楽活動をする中での一番の喜びじゃないかと思っていて。
「本当にその通りです」
――しかも今年の9月14~15日には、高円寺のHoiPoiで〈こっそり!島原物産展〉という、島原で出会ったお店の方々を東京に呼ぶイベントを企画するまでに至ります。
「大変だったんですけど、やってよかった。おすすめのものとか好きな人を広めたい気持ちが強くて、私の友達を別の友達に紹介してつながるところを見るのもとても好き。プライベートでは色んな人を呼んで自宅でご飯会を開いたりしているんですけど、その感覚で大規模にお祭りとしてやってみました」
――そのモチベーションってもはやアーティストとしてライブに呼ばれて歌う役割を超えた熱意を感じます。
「そうですね……。とにかくうかがった先々でみなさんに温かく迎えてもらって優しくしてもらえるんです。ご飯を食べさせてもらったり、色んな場所に連れていってもらったり。僅かな時間のライブだけではとても返し切れないものをいただいていると思っていて。なのでその日限りではなくできればちゃんとお友達になりたいし、なにか私にできることがあればやりたいとは常に考えています」
