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三上晴子《欲望のコード》2010/11年
撮影:木奥恵三

――目だったり耳だったり、感覚器官が被膜として存在している、それがこれから変わるという、三上さんの時代認識があったのかもしれないですね。

「三上さんは、いつも自明だと思われているものに対して疑っているようなところがあるので。《gravicells》では、重力をモチーフにしたというのですごい驚いたんです。

私たちの身体の形態とか、こうやって私たちがいること自体も1Gがあることによってそうなんだ、と思えばね。そして、《欲望のコード》では、実際にデジタル監視とかアルゴリズムの問題まで入っている。(テクノロジーによる)ひとつの環境ですよね。誰かがコントロールしているけれど、コントロールし得ないくらいアルゴリズムが稼働しているような状況……これも環境なんです。でも、人間が作ったものの人間がコントロールし得ないほど肥大化し加速しつづける環境であるから、それを不気味なものとして提出している。しかしそれは、私たちの外部とも言えず、やはり外と内が相互に絡まり合ったプロセスと言える。三上さんは、そのような状況を気づかせようとしたんだと思うんです。もしくはうっすら気づいていても、なすすべもないまま日々を送る一種のアパシー状態にある私たちに異化を差し向けているというか。三上さんは《欲望のコード》のあと、亡くなる直前まで、虫のような小型のドローンを駆使する作品を構想していました。最先端の技術を彼女独自の視点で駆使する作品は、私の憶測ですが、もしかするとデジタルとアナログのアルゴリズムを関係づけるものに出会ったのかもしれません」

三上晴子《Eye-Tracking Informatics》2011/19年
撮影:木奥恵三

――そういう流れでいくと、今回のICCでの展覧会は、三上さんの90年代以降の主だったインスタレーション作品が見られる展覧会になっていると思います。これらの、三上さんが作り上げた世界から、初期の活動までを遡行して、三上さんの活動はずっと一貫している、ということがわかるかもしれませんね。

「やはり知覚の問題を扱った作品4点を一気に見られるというのはすごいですよね。視線、聴覚、重力、そしてアルゴリズムとかデジタル監視の問題。彼女が〈知覚のインターフェイス〉として展開していって、深めていった作品を一気に見られるのは貴重な機会だなと思っています。三上さんの作品を実際に見たことがない人も多いと思うし、ぜひ実際に体験してほしいと思います。

あとは、今回のICCの(展覧会の)タイトルになっている〈知覚の大霊廟〉のように、知覚の統合をめざしているということで、いろんな知覚を扱っている中でそれを統合するということを考えていたのだと思います。私たちはこの4つの作品を見ることによって、彼女の抱いていた〈知覚の大霊廟〉を想像する余地を与えられている。彼女はそれを私たちに見せることはできなかったけれど、私たちは11年になろうとしているいま、現代において、考えていく必要があると思う。彼女の作品として考えてもいいし、個人を超えていくような、知覚の分断を超えていくような世界を考えていくことにもつながるのではないかと。それこそが彼女が私たちに伝えたかったことではないかと思います」

 


四方幸子(Yukiko Shikata)
キュレーター/批評家。十和田市現代美術館館長。美術評論家連盟会長。〈対話と創造の森〉アーティスティック・ディレクター。多摩美術大学・東京造形大学客員教授、武蔵野美術大学・IAMAS・京都芸術大学非常勤講師。情報フローというアプローチから諸領域を横断。1990年代よりキヤノン・アートラボ、森美術館、NTT ICCと並行しインディペンデントで先進的なプロジェクトを多く実現。著書に「エコゾフィック・アート 自然・精神・社会をつなぐアート論」(2023)。共著多数。
https://yukikoshikata.com/

三上晴子(Seiko Mikami)
アーティスト。1984年から情報社会と身体をテーマとした大規模なインスタレーション作品を発表。1992年から2000年までNYを拠点に主にヨーロッパとアメリカで数多くの作品を発表する。2000年からは多摩美術大学にて教鞭をとる。2015年、病気のため死去。

 


EXHIBITION INFORMATION
知覚の大霊廟をめざして――三上晴子のインタラクティヴ・インスタレーション

2025年12月13日(土)-2026年3月8日(日)東京・初台 NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]ギャラリーA、B
開館時間:11:00-18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝休日の場合は翌日)、年末年始(12月29日[月]-1月5日[月])、ビル保守点検日(2月8日[日])
https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2025/toward-a-mausoleum-of-perception-mikami-seiko-s-Interactive-art-installations/