20年前の2006年3月15日、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのサードアルバム『ファンクラブ』がリリースされた。本作は、“リライト”などを収録した前作『ソルファ』が好セールスを記録したことで急速にバンドの知名度が上がり、その反動などから生まれた作品でもある。発売20周年を記念した再現ツアーも控えている今、ライターの金子厚武に『ファンクラブ』について再考してもらった。 *Mikiki編集部

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ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ファンクラブ』 ソニー(2006)

 

成功による葛藤から生まれたダークなアルバム

いつもはカラフルな中村佑介によるアートワークの中で、唯一モノクロの『ファンクラブ』は、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)のディスコグラフィの中で最も暗いアルバムとして知られている。曲調自体はそこまで暗いわけではないのだが、やはり歌詞のムードはかなりダーク。本作のテーマは〈終焉〉や〈喪失〉であり、当時のインタビューで後藤正文は「自分のインナーワールドを描いたアルバム」と話している。陽性の響きを持った『ファンクラブ』というタイトルは、そんな作品にあえてつけられたものであった。

この背景にあったのは、成功の裏側にあった葛藤である。2004年に発表され、“リライト”や“Re:Re:”を含むセカンドアルバム『ソルファ』がオリコンチャートで1位を獲得。この年は初出演の〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉でいきなりGRASS STAGEのトリ前を飾り、12月には日本武道館でのワンマンを成功させていて、アジカンは文字通りバンドシーンのトップに立った。2002年にBUMP OF CHICKENが『jupiter』でオリコン1位を獲得し、その後にsyrup16g、ART-SCHOOL、ACIDMANらがメジャーデビューをして、下北沢ギターロックの大波が生まれたわけだが、当時この規模の成功を収めたのはBUMP OF CHICKENとアジカンの2組だけだった。

しかし、当時の後藤はチャートの結果や集客といった人気のパラメーターに対して、自分たちの実力不足を感じていた。アジカンの拠点は下北沢以前に横浜であり、横浜のパンクシーンや2000年代初頭のメロコアの盛り上がりを間近で感じていたこともあって、ソングライティングの面ではオアシスなどから影響を受けつつ、パワーコードやオクターブ奏法、ストレートな8ビートも多用することで、ライブハウスにおける人気を獲得。初期の曲は比較的コピーがしやすく、それがゆえにアジカンはこの国の〈ロックの教科書〉となっていったわけだが、後藤をはじめとしたメンバーはよりオリジナリティを身につける必要性を感じていた。

また、“遥か彼方”や“リライト”がアニメの主題歌に起用され、「鋼の錬金術師」のテーマ曲だった“リライト”が今やバンドの代表曲になっていることはもちろん、「NARUTO -ナルト-」のテーマ曲だった“遥か彼方”も海外で圧倒的な人気を誇っていて、Spotifyの総再生数は“リライト”の倍以上、もうすぐ1億5,000万回に迫る勢いだ。この後に海外でもライブを行うようになる上で、これらの楽曲は非常に重要な曲になったわけだが、当時はまだ〈ロックバンドがアニメの主題歌をやるのはダサい〉という言説が一部でまかり通っていた時代であり、SNSが発展していなくても、その声はネットなどを通じてバンドに届き、特にフロントマンである後藤のメンタルを抉るものであった。

 

2000年代中盤の音楽シーンと呼応した多様なリズムアプローチ

そんな背景を踏まえて、バンドが音楽的な面で特に取り組んだのはリズムの強化であり、その象徴が1曲目の“暗号のワルツ”と、6曲目の“ブルートレイン”。2005年11月にシングルとしてリリースされた“ブルートレイン”は、2本のギターとベースがLRで掛け合う中でドラムパターンが変化していき、カッティングもアルペジオもキメも織り交ぜた1分近い構築的なイントロが最大の特徴で、こうした裏拍を意識したアプローチはアルバムの各所に散りばめられている。

さらに、8分の6拍子で始まって、途中からドラムのみ4分の4拍子になってポリリズムになり、サビで全体が4分の4拍子に変化する展開が切迫感を生む“暗号のワルツ”を1曲目に置くことで、バンドのモードを明確に提示した。ギターのループフレーズを軸としながら、途中で拍の表と裏が入れ替わる“ブラックアウト”、伊地知潔による間奏のブレイクビーツが印象的な“路地裏のうさぎ”、当時のアジカンとしては珍しい、跳ねたリズムを用いた“真冬のダンス”など、アルバムを通じてリズムに対する意欲的な挑戦に溢れている。

この変化は2000年代中盤の国内外の音楽シーンとも関連があると言えるだろう。後藤にとって大きなインスピレーション源になったNUMBER GIRL(〈ファンクラブ〉はNUMBER GIRLの自主企画のタイトルでもある)の向井秀徳はバンド解散後、2003年にZAZEN BOYSを結成し、ヒップホップやフリージャズなども咀嚼した異形のリズムセクションを形成。また当時はエモやポストロックの人気が高まり、ポリリズムや変拍子が浸透していった時期でもある。後に後藤がプロデュースすることになるチャットモンチーが、『ファンクラブ』と同じ2006年にリリースした“シャングリラ”で変拍子を用いて注目を集めたのは、こうした流れとも無関係ではないように思う。

一方、海外ではロックンロールリバイバルの流れを経て、UKでのポストパンクリバイバルが本格化。ブロック・パーティーやフランツ・フェルディナンドといったダンサブルかつ構築的なリズムを持ち味とするバンドが増えた時期だった。常に海外のシーンを意識し、2004年の〈NANO-MUGEN FES.〉で初めて海外からのアクト(UKからはザ・クリブスが出演)を呼んでいたことも踏まえて、やはり『ファンクラブ』にはこの時代のムードが反映されていたように思う。

ちなみに、“ブルートレイン”は横浜の市営地下鉄がモチーフだと思われるが、前年にはくるりが京浜急行をモチーフにした“赤い電車”をリリースしている。当時のくるりは『NIKKI』でのロックンロールモードから、クラシックに傾倒した『ワルツを踊れ Tanz Walzer』への移行期。それ以前からジャンルを横断した独自の路線を突き進んでいたため、当時のアジカンとは接点が薄かったように思う。しかし、ともに今年結成30周年を迎え、同い年でもある両バンドのフロントマン、後藤と岸田繁は近年急接近し、共演を繰り返していることを思えば、“ブルートレイン”はやはり“赤い電車”への、くるりへのラブレターだったのかもしれない。

 

重苦しいムードを抱え、切実な想いを吐露した歌詞

歌詞に関しては前述の通り、当時の後藤が抱えていた重苦しいムードが直接的に表れている。“暗号のワルツ”では〈君に伝うかな/君に伝うわけはないよな〉、“ワールドアパート”では〈君も全部なくして/分かったよ〉と歌い、『君繋ファイブエム』からの2年半で感じた〈君〉との断絶が歌われていて、“ワールドアパート”での吉野寿(eastern youth)ばりの絶唱も当時の閉塞感の表れのように聴こえる。

昨年後藤のレーベルonly in dreamsからアルバムをリリースしたyubioriが、自主イベントのタイトルに使っている〈鈍る皮膚感覚/僕を忘れないでよ〉というフレーズを含む“ブラックアウト”を経て、“桜草”はアルバムの中で最も内省的な1曲であり、この曲の歌詞がモノクロのアートワークの直接的なインスピレーション源になっていると考えられる。

そんな重苦しいムードを抱えた先で、アルバムのハイライトとなるのが9曲目の“センスレス”。この年の後半には初のアリーナツアーを開催しているように、ライブ会場の規模に合わせて楽曲のスケールも広がり、この曲はまさに大バコ仕様のダンサブルなナンバーと言える。ブレイクと8分の6拍子への変化を挟み、最後はパンキッシュに駆け抜けていく曲構成が抜群の高揚感を生む、まさにライブアンセムだ。後藤の歌詞も前半では〈色を失って黒くなるだけ〉と諦念を覗かせるが、曲の展開に合わせて、〈それでも想いを繋いでよ〉と願い、最後に〈僕はずっと/想いをそっと此処で歌うから〉〈心の奥の闇に灯を〉と歌い上げるのはやはり非常に感動的だ。

それでもアルバムはまだここで終わらず、ドビュッシーの“月の光”を引用した“月光”を経て、ラストを締めくくるのはメランコリックな“タイトロープ”。三線をもとにしたというギターのチューニングもユニークな曲だが、〈どうか投げ出さないで/そっと心に繋いで〉〈見失った此処が始まりだよね〉と、切実な想いを吐露してアルバムが終わっていく。

曲順通りに聴くことによって、後藤の心情の変化が伝わり、決して問題が解決されるわけではないが、最後まで心のモヤを抱え続けるからこそ、このアルバムはいつまでも聴き手の心に余韻を残し続ける作品になっているのだと思う。

 

再現ツアーが開催される意味

最後に、このアルバムが2026年に再現されることの意味を考えてみよう。再現ツアーのタイトルは〈Midage Fanclub〉で、〈Midage〉は〈中年〉の意味。今年の12月で50歳となる後藤がユーモアを込めてつけたタイトルだと思うが、『ファンクラブ』のリリースから20年を経て、年齢を重ね、メンタル的には逞しさを増し、このアルバムの持つ重苦しさを俯瞰的に楽しめるようになっているはず。しかし、社会の重苦しさという意味では、2026年という年はアジカンが活動をしてきた30年の中で、最も厳しい状況であり、〈君〉との断絶が最も進んでいる年だと言ってもいいかもしれない。

最新シングルの“スキンズ”はアニメの主題歌でもあるが、そこに反戦の意思を込めずにはいられない、現在はそんな時代である。だからこそ、『ファンクラブ』の持つ重苦しさをバンドとオーディエンスでシェアし、コミュニティとしての結びつきを強くすることには大きな意義があるはずだ。〈どうか投げ出さないで/そっと心に繋いで〉〈見失った此処が始まりだよね〉。この言葉の意味をもう一度捉え直し、未来へと繋げていくために。〈Midage Fanclub〉はその絶好の機会になるのではないだろうか。