©Carol Friedman

心に残るメロディと歌詞とシンガーの絶妙な取り合わせ

 4月の取材で話していた、現在のジャズ・シーンを代表する様々なヴォーカリストを招いた新作『Songbook』がいよいよ発表となる。本作の特徴は、ケニーの曲に、ヴォーカリストで作詞家のジャニス・ジャレットが歌詞を書いている点にある。

 「彼女は何十年も前から、私の曲に付けた歌詞を送ってくれていた。いつかそれを作品にしようと話していたのが、今回ようやく実現したんだ」

KENNY BARRON 『Songbook』 Artwork(2025)

 ヴォーカリストには、それぞれの曲にふさわしいと思う人をケニー自身が選んでいる。

 「たとえばゴスペル調の“Beyond This Place”は、ベイラー・プロジェクトという自身のグループで歌うジーン・ベイラーを聴いて、彼女に歌ってもらおうと思った。“In The Slow Lane”のカート・エリングは、以前にツアーを一緒にやった時にこの曲をとても気に入ってくれていた。アン・ハンプトン・キャラウェイとはすでに一緒に録音もしていて、声も気に入っていた。彼女は客席の誰かからひとつの単語をもらって、それを元に即興でピアノの弾き語りをする、なんていうこともできるんだよ」

 “Minor Blues Redux”のキャサリン・ラッセルについては、ケニーはもともと彼女の母親で、女性初のエレクトリック・ベース・プレイヤーのひとりでもあったカーライン・レイと知り合いだった。この曲の作詞はキャサリンである。タイリーク・マクドールは、クリスチャン・マクブライドの妻メリッサ・ウォーカーが主宰する〈ジャズ・ハウス・キッズ〉の出身で、今では数少ない男性ジャズ・シンガーのひとりである。ちなみに、サマラ・ジョイにも声をかけ、曲も決めていたが、スケジュールの折り合いがつかず、今回の参加は見送りになったという。

 録音は2日間で行い、いくつかの曲のキーをシンガーの音域に合わせて変更する以外、とくにアレンジを用意することもなく、1日4人ずつのペースで作業したという。基本ぶっつけ本番の録音でも、シンガーと曲の個性が自然ににじみ出ているところが、ジャズという音楽の醍醐味でもあり、ジャズ・ミュージシャンの面目躍如でもあると言えるだろう。

 ケニーが作曲する時に最も大事にしているのはメロディだという。

 「肝心なのは、凝った曲を作ることじゃなく、心に残るメロディを作ることなんだ。ガブリエル・フォーレの曲みたいに、すぐに思い出せるメロディをね。いつも上手く行くわけじゃないけれど、常にそれを目指しているよ」