©Claire Marie Vogel

2年連続でグラミー賞ノミネート! 記録破りの世界的ロング・ヒット“Lose Control”を生んだエモーショナルな新星が、心を揺さぶる名曲だらけの日本独自編集ベスト盤を届けてくれた!

慈愛に満ちた歌声

 成功の要因やジャンルのクロスオーヴァーといった後付けの分析的なところはさておき、ここ数年でジェリー・ロールがブレイクしたり、モーガン・ウォーレンがロングヒットを続けていたりする様子を見ていて感じるのは、誰もが何かしらの痛みや苦しみを抱えながら生きているということが明白になった昨今、そういうハードな心情に寄り添う音楽がより深く支持を集めているということだ。そんななかで〈セラピー以外、俺は全部試してみた〉というアルバム名を掲げて登場したテディ・スウィムズは、本人がそれだけ多くの苦悩を抱えていたという事実を音楽に変換することで時代の要請に応えてきた存在と言えるのかもしれない。

TEDDY SWIMS 『I’ve Tried Everything But Therapy (Japan Special Edition)』 ワーナー(2026)

 全身タトゥーのワイルドなルックス以上に、慈愛とエモーションを纏ったソウルフルな歌声を最大のトレードマークとするテディ・スウィムズ。彼が2023年6月にリリースした“Lose Control”は全米チャートに99位で初登場し、そこから32週間かけて2024年3月にNo.1を記録した(史上最長の上昇記録)。最終的には2024年の年間総合チャートでも1位に輝き、のみならず世界23か国でチャート首位を獲得。彼自身も翌2025年のグラミー賞では〈最優秀新人〉部門にノミネートされた。そして間近に控える第68回グラミー賞においては最新アルバム『I’ve Tried Everything But Therapy (Part 2)』が〈最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム〉部門にノミネートされてもいる……そんな絶好のタイミングで登場するのが日本独自編集盤『I’ve Tried Everything But Therapy (Japan Special Edition)』だ。こちらは彼にとって初めての日本盤リリースとなり、出世作となった初のフル・アルバム『I’ve Tried Everything But Therapy (Part 1)』(2023年)と、そのデラックス版にあたる2024年の〈Part 1.5〉、先述した2025年の〈Part 2〉、それらを網羅した〈Complete Edition〉という4タイトルから代表曲や人気曲を厳選した独自企画の日本デビュー作にしてベスト選となっている。単曲でヒットの数々に親しんでいたリスナーもここで初めてテディを知ったという人にも打ってつけの一枚となるだろう。

 テディ・スウィムズこと本名ジェイテン・コリン・ディムズデールは、92年にジョージア州アトランタの郊外で生まれている。幼い頃から父親の影響でマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダー、アル・グリーンらのソウル音楽に触れていたそうだが、高校時代に演劇を通じて歌いはじめるまではアメフトに夢中だったという。その後は友人とメタル・バンドを結成し、美容師になるために通っていた専門学校を中退して音楽の道を志すようになる。友人のライヴの前座にラッパーとして起用された際に思いついた名前がテディ・スウィムズだった。働きながら複数の形態で活動を模索していた彼だが、2019年にYouTubeに投稿したマイケル・ジャクソン“Rock With You”のカヴァーで脚光を浴び、さらにシャナイア・トゥエイン“You’re Still The One”のカヴァー動画が爆発的に視聴されたことをきっかけにワーナーと契約。まさに歌声そのものの魅力で成功への足掛かりを掴んだというわけだ。

 

多彩で親しみやすいサウンド

 そこからコンスタントなEPリリースを重ねて発表したのが、先述の『I’ve Tried Everything But Therapy (Part 1)』であり、“Lose Control”であった。ルーツにあるソウル〜R&Bをベースにしながら、ラウド〜オルタナ系からハートランド系のロック、ヒップホップ、カントリーまで多様なスタイルのサウンドにフィットし、多様な角度からアプローチしていくヴォーカルは何よりの賜物だが、それを支えるクリエイターにも恵まれている。初作〈Part 1〉でプロデュースの中核を担ったのはジュリアン・ブネッタ。かつてワン・ダイレクションとの仕事で脚光を浴びたのも今は昔、近年ではサブリナ・カーペンターの成功の立役者と説明するほうが早いが、彼とアモらが組んで手掛けた“Lose Control”や“The Door”などの情熱的な仕上がりはやはり絶品だ。他にはアンドリュー・ウェルズによるヴィンテージ・ソウル風の“What More Can I Say”やヒップホップのビート感も備えた“Goodbye’s Been Good To You”における柔軟な身のこなしもテディの魅力だろう。

 そこから2年後に登場した〈Part 2〉ではブネッタの制作パートナーとしてジョン・ライアン(このコンビではオリヴィア・ディーン仕事も記憶に新しいところ)やジェフ“ギッティ”ギテルマン、マット・ザラが名を連ね、つまりは現行シーンきっての多才な売れっ子ポップ職人たちがひしめく作品となった。そのぶん曲調も幅を広げ、逞しい激情ロック・ナンバー“Not Your Man”をはじめ、ボビー・ウーマックを連想させる節回しが光るソウルフルな“Bad Dreams”、さらにギヴィオンをフィーチャーしたネオ・ソウル的な風情の“Are You Even Real”、モダンなポップ・カントリーの雄大さを備えた“Guilty”……と、どこを切っても親しみやすく胸に迫る、但し書き不要のポップ・ナンバーが揃っていて、ここで記載してきた楽曲はいずれも今回の〈Japan Special Edition〉で楽しむことができる。

 彼の持ち味が本国USだけでなく世界各国で支持されたことは、シンプルに彼の歌声と楽曲が真の普遍性を備えていることの証だろう。また、仮に英語圏の耳でなくとも、心の痛みや深い悲しみを知る者だからこそ醸し出すことのできる温もりや優しさがテディの歌声からは伝わってくるはずだ。昨年の来日を経て日本でもさらに広がっていきそうなこのタイミングで、珠玉の歌声と楽曲たちに心を揺さぶられてほしい。

テディ・スウィムズのEP作品を紹介。
左から、2021年作『Unlearning』『A Very Teddy Christmas』、2022年作『Tough Love』『Sleep Is Exhausting』(すべてWarner)

左から、テディ・スウィムズの2023年作『I’ve Tried Everything But Therapy (Part I)』、2025年作『I’ve Tried Everything But Therapy (Part 2)』(共にWarner)、ギヴィオンの2025年作『Beloved』(Not So Fast/Epic)

 

すでに各方面での実績は十分! テディが繰り広げてきた多彩なコラボを駆け足でご紹介!

 もともと多彩なジャンルの楽曲をカヴァーしていたり、それ以前からそれぞれスタイルの異なるバンドで活動していたりしたテディ・スウィムズは、トレードマークとなる歌声が芯にしっかりあるだけに、どんな相手と絡んでも柔軟に馴染み、同時に自分の持ち味を押し出せるタイプのヴォーカリストだ。そんなわけで彼が外部で繰り広げてきた客演やコラボ仕事を並べればユニークで幅広いラインナップとなる。まず、ブレイク前の彼をいち早くフックアップしたメーガン・トレイナーとはトラディショナル・ソウル〜ゴスペル風味のバラード“Bad For Me”をデュエット。またカントリー・シンガーのミッチェル・テンペニーとはリズミックなモダン・ポップ“Elephant In The Room”で手合わせ。それらを発表したのと同じ2022年の段階でONE OK ROCKの“Free Them”に抜擢されていたのも特筆すべきだろう。

 その流れでオール・タイム・ロウの“New Religion”にも客演した2023年は、アルバム・デビューというタイミングもあってより遠くのエレクトロニック方面からもオファーが舞い込むようになり、なかでもイレニアムと作り上げたアンセミックな“All That Really Matters”はまっすぐな歌声が活きる感動的な出来映えに。一方でアーミン・ヴァン・ビューレン“Easy To Love”はアヴィーチー曲におけるアロー・ブラックの役割を果たすような作りがおもしろい。ダンス系ではデヴィッド・ゲッタ × トーンズ・アンド・アイとのスウィンギンな“Gone Gone Gone”でもブルージーな歌声がハマっていた。

 他にもコライトに参加していたリンキン・パーク“Overflow”のような例もありつつ、テディ本人がビッグになっていく過程でコラボの幅も自国のカントリーから海外のメインストリームまで拡大。アルゼンチンのティアゴPZKと組んだ“Sometimes”、アトランタの地縁が活きたサマー・ウォーカーとの“Allegedly”などが続いており、ここからも多様なフィールドから彼の歌声は響いてくるはずだ。

左上から、メーガン・トレイナーの2022年作『Takin’ It Back』(Epic)、ミッチェル・テンペニーの2022年作『This Is The Heavy』(Columbia Nashville)、ONE OK ROCKの2022年作『Luxury Disease』、オール・タイム・ロウの2023年作『Tell Me I’m Alive』(共にFueled By Ramen)、リンキン・パークの2024年作『From Zero』(Warner)、オーヴィル・ペックの2024年作『Stampede』(Warner)、イレニアムの2023年作『ILLENIUM』(Warner)、アーミン・ヴァン・ビューレンの2023年作『Feel Again』(Armada)、ジェシー・マーフの2024年作『That Ain’t No Man That’s The Devil』(Columbia)、トーマス・レットの2025年作『About A Woman (Deluxe Edition)』(Valory)、ティアゴPZKの2025年作『GOTTI A / GOTTI B』(Grand Mode)、サマー・ウォーカーの2025年作『Finally Over It』(LVRN/Interscope)