
菅野よう子、Cornelius、石野卓球、川井憲次……「攻殻機動隊」と音楽
ここで改めて「攻殻機動隊」の音楽について振り返りたい。上述の新作アニメのPVでは、サイレンのようにけたたましい高音ギターソロをフィーチャーしたミディアムテンポのロックサウンドがBGMとして流れているが、このイメージに近いのは、神山健治監督による「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズ、もしくはNetflixで配信されたフル3DCGアニメーション作品「攻殻機動隊 SAC_2045」(2020年・2022年)の音楽ではないだろうか。前者の音楽を担当したのは言わずと知れた菅野よう子。縦横無尽にジャンルを横断するタイプの作家のため、本シリーズにおける音楽の方向性をひと言で括るのは難しいが、全体的に打ち込みとバンドサウンドを併用したデジタルロック的な作風の楽曲が多く、ロシア人シンガーのオリガを迎えた神秘的な“inner universe”(TVアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」OPテーマ)、スコット・マシュー歌唱のタフな哀愁が滲む電脳ブルース“lithium flower”(TVアニメ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」EDテーマ)など名曲揃いだ。
一方の「攻殻機動隊 SAC_2045」は、ゲーム「メタルギアソリッド」シリーズなどの仕事で知られる戸田信子と陣内一真が音楽を担当。「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズとはパラレルワールド的な関係性でありつつ、神山健治が荒牧伸志と共同で監督を務め、登場キャラクターやキャスト陣も共通しているため、音楽面でも「S.A.C.」シリーズを踏襲するようにデジタルと生音の融合が肝になっている。その中でも、近年のハリウッド映画の劇伴にも通じる重厚なリズム、インダストリアルやアンビエントのテクスチャーを取り入れたモダンなサウンドデザインが特色と言えるかもしれない。
キャストを一新して全4部の劇場アニメで展開された「攻殻機動隊 ARISE」(2013年~2014年)シリーズの音楽を手掛けたのは、Corneliusこと小山田圭吾。電子音と生楽器の音がシームレスに共存する、ミニマルでエレクトロニック志向の音作り、坂本慎太郎が作詞したsalyu × salyu“じぶんがいない”をはじめとした一連の主題歌における実験的なアプローチは、「攻殻機動隊」の世界に新鮮な風をもたらした。第4部のEDテーマを高橋幸宏 & METAFIVE“Split Spirit”が担当したことも、高橋のソロ作『NEUROMANTIC』(1981年)がサイバーパンク小説の祖と言うべきウィリアム・ギブスンの傑作「ニューロマンサー」に影響を与えたことを考えると感慨深いものがある。
また、2024年にCDおよびLPでのリイシューが実現して話題になったのが、1997年にプレイステーション用ソフトとして発売されたゲーム「攻殻機動隊~GHOST IN THE SHELL~」のサウンドトラック。石野卓球がサウンドディレクションを務めた本作には、ハードミニマル一直線な彼のソロ曲“Ghost In The Shell”のみならず、ハードフロア、マイク・ヴァン・ダイク、ウェストバム、デイヴ・エンジェル、ジョーイ・ベルトラム、アドヴェントらテクノシーンの第一線で活躍していたアーティストたちが楽曲を提供。デリック・メイが作品のファンだったことから新曲“To Be Or Not To Be”を書き下ろしたというエピソードからも、「攻殻機動隊」がテクノミュージックのイノベイターたちにも刺激を与える作品だということが伝わるはずだ。
そして、初アニメ化となった押井守監督による劇場作品「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995年)と、その続編「イノセンス」(2004年)の劇伴を手掛けたのが川井憲次。原作からコミカルな要素を間引き、押井節全開のノワールテイストを強めた重々しい作風に寄り添うように、音楽も重厚かつ荘厳な雰囲気が漂うものに。なかでも象徴的なのが、女性民謡グループの西田和枝社中が歌う“謡”シリーズ。民謡の唱法や節回しを基調としながらも、ブルガリアンボイスにも似た幻想的な歌声と旋律、大和言葉を用いた意味深な歌詞は無国籍な神秘に溢れており、近未来的な世界を描いたアニメーション映像との対比によるインパクトは絶大だ。「イノセンス」のクライマックスシーンで流れる“傀儡謡_陽炎は黄泉に待たむと”での、茂戸藤浩司の和太鼓とオーケストラが加わった壮大なサウンド体験は、他では味わえないものだろう。
