受賞者との記念写真

 2023年3月、新潟でまったく新しい国際映画祭が生まれた。

 〈新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)〉――その目的は、アートと商業の境界を取り払い、世界のアニメの潮流を知り、クリエイターたちを讃えること。コンペティション部門で審査委員長を務めた押井守監督の言葉に突き動かされるように、6日間の会期中、4会場約50本の上映やトークイベントには、国内外のアニメーターや大友克洋、片渕須直ら名監督が続々と駆けつけ、映画祭の船出にエールを送った。

 アニメの国際映画祭といえば、フランスのアヌシーやカナダのオタワなどが有名だ。NIAFFの特徴は、そうしたアート志向の映画祭とは異なる〈商業作品をともに顕彰する〉という姿勢。17日に発表された〈大川=蕗谷賞〉のラインナップには、劇場版『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の撮影監督・寺尾優一や、大ヒット中の『THE FIRST SLAM DUNK』のアニメーションスタジオの名が並び人々を驚かせた。

審査委員長押井守監督

 押井監督によれば、アニメの世界での〈アートと商業〉の断絶はクラシックとポップス以上に根深く、観客層はまったく異なるという。アート作品には従来型の映画祭があるが、商業作品には正当な評価の場がない。また、注目されるのは監督とキャストだけで、背後にいる優れた技術スタッフに陽が当たることは少ない。この状況を打開したいという情熱が、NIAFFには満ちているのだ。

 映画祭の花形であるコンペティション部門も、長編商業アニメーションに特化している。

めくらやなぎと眠る女

カムサ - 忘却の井戸

四つの悪夢

劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」
©WIT STUDIO/Production I.G

 今年は個性あふれる10作品が集結し、最終日である22日、村上春樹の6つの短編を映像化した『めくらやなぎと眠る女』(ピエール・フォルデ監督、フランス他、2022年)がグランプリを受賞。『カムサ - 忘却の井戸』(ヴィノム監督、アルジェリア、2022年)に〈傾奇賞〉、『四つの悪夢』(ロスト監督、オランダ他、2020年)に〈境界賞〉、『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』(牧原亮太郎監督、日本、2022年)に〈奨励賞〉が贈られた。初回だけにアート寄りのラインナップではあったが、その表現の多様性にあらためて驚かされるイベントとなった。

『童夢』
©Bandai Namco Entertainment Inc.
©2013 MASH・ROOM / DOMU COMMITTEE

 『AKIRA』で知られる世界的クリエイター〈大友克洋〉を特集したレトロスペクティブ部門は、予想通りの大人気。チケットは瞬く間に完売し、大友監督自らのサプライズ来場もあって、幸運なファンたちを熱狂させた。

『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
©Cartoon Saloon, Melusine Productions, The Big Farm, Superprod, Nørlum

 世界の潮流部門にラインナップされた、アニメーションの〈今〉を象徴する作品群も興味深い。個人的には、初監督作でいきなりアカデミー賞にノミネートされたトム・ムーア監督『ブレンダンとケルズの秘密』(アイルランド、2009年)との出会いが忘れられない。アニメーションと音楽のあまりに親密な関係性に鳥肌が立ち、実写では表現しえない情動に号泣せずにはいられなかった。ムーア監督の〈ケルト三部作〉や新海誠監督の初期作品、TVシリーズとして制作された『平家物語』の一挙上映も、ファンにとってはたまらない体験だっただろう。

 大人気シリーズをヒロインの視点から描いた劇場版『ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』(日本、2022年)では、河野亜矢子監督のトークショーも。コンペティション部門審査員を務めたジンコ・ゴトウ(『ファインディング・ニモ』プロデューサー)らによるシンポジウム〈アニメーションと女性〉に刺激を受けたばかりだったので、その活躍に胸が熱くなった。

 上映作品と、こうしたシンポジウムやアカデミック・プログラムをともに経験できるのも、映画祭のかけがえのない存在意義に違いない。