ひとつひとつのパーツを確かめるように降り注ぐ言葉と神秘的なメロディー。多層構造の音世界に迷い込んだ先で出会うのは、あなたを保つものと官能的な恍惚、そして──
多重構造のポップス
人々が義体(サイボーグ)化された近未来を舞台に、特殊な電脳犯罪に立ち向かう組織〈公安9課〉の活躍を描いた人気アニメ・シリーズ〈攻殻機動隊〉。なかでも、2013~2014年に〈border: 1~4〉が劇場公開され、今春にはTVアニメとして再構成された「攻殻機動隊 ARISE」はヒロインの草薙素子の若かりし頃を描いた設定で話題になったが、その草薙の声を担当しているのが坂本真綾。そして、サントラを手掛けたのがコーネリアスこと小山田圭吾だ。ここで〈新しい攻殻〉を強く印象付けた二人が、〈坂本真綾 コーネリアス〉名義でTV版の主題歌“あなたを保つもの”を発表。さらに6月20日から全国ロードショーが開始した「攻殻機動隊 新劇場版」でもテーマ・ソング“まだうごく”を制作し、新曲“東京寒い”を加えたシングル『あなたを保つもの/まだうごく』をリリースした。
〈攻殻〉を通じて初めて知り合った二人。その第一印象を訊いてみると、小山田いわく「スターみたいな感じでツンとしてたらどうしようかと思ったんですけど、全然大丈夫で安心しました(笑)」。一方の坂本は、「ミステリアスなイメージがあってドキドキしてたんですけど、すごく普通に話ができて良かったです」とお互い緊張しながらの出会いだったようだ。そんな両者の初コラボとなったのが“あなたを保つもの”。坂本の声をサンプリングして作り上げた迷宮のようなトラックについて、小山田はこんなふうに説明する。
「生音と電子音を織り交ぜたりしながら、普通のポップスより多重的な構造になっていて。あと人間が歌うには難しい、ちょっとロボットっぽい変なメロディーになっているのは〈攻殻〉の世界観を意識しているんです」(小山田)。
そんな複雑な曲を、透明感溢れる歌声で歌いこなす坂本。10代の頃から菅野よう子のアクロバティックな曲を歌ってきた彼女のスキルが活きている。
「確かにこれまで結構難しい曲を歌ってきましたが、この曲がいったい何拍子なのかとか、曲全体の構造を把握するために何度も聴きました。これまで歌った曲とはまた違った不思議な難しさがあって、考えれば考えるほどわからなくなる。でも、頭で考えることをやめて感覚的に聴けばスッと入れるんですよね。それがすごく快感でした」(坂本)。
〈攻殻〉の世界観を音像化した“あなたを保つもの”に対して、坂本真綾というシンガーにフォーカスしたのが“まだうごく”だ。小山田は、この曲を通じて〈坂本の歌をしっかり聴かせたい〉と思ったとか。
「“あなたを保つもの”は義体みたいにいろんなパーツを組み合わせて作った曲なんですけど、“まだうごく”は坂本さんの歌全体、歌の表情とかを、しっかり聴かせたいと思ったんです。あと、〈劇場版〉の最後に流れる曲なんで、スケール感があって、微かな希望を感じさせる曲にしたいなと」(小山田)。
「そうですね。確かに映画を観た後、すごく良い後味を残してくれる曲だと思いました。あと、私は素子として歌っているわけじゃないですけど、曲の雰囲気や歌詞に素子の心情が反映されている気がするし、私自身、ひとりの女性として共感できる歌詞だったりもして、歌えば歌うほど好きになる曲ですね」(坂本)。