海外標準の3DCGアニメ
85年2月に青心社という関西の新興出版社から、世界大戦後の近未来を舞台としたSF作品「アップルシード」というコミックが描き下ろし単行本として発表された時、30年後にも参照され続ける普遍的な物語だったことに気付いていた人はどれだけいただろう。
サイバーパンクSF「攻殻機動隊」で知られる漫画家・士郎正宗のもうひとつの代表作「アップルシード」が、アニメ監督の荒牧伸志の手によって映画化されるのは、今回で3度目だ。2004年の「APPLESEED」、2007年の「EX MACHINA」、そして2015年1月17日から日本公開される「アップルシード アルファ」である。
いまわざわざ〈日本公開〉と書いたのは、先立って2014年に北米やヨーロッパで先行公開、カナダのファンタジア国際映画祭の正式招待作品にも選出されたように、〈アルファ〉は海外版がオリジナルとして先に製作され、その脚本と台詞を士郎正宗の監修の下、見直した日本版が作られたためだ。従来の日本アニメ的なトゥーン調ではなく、〈フォトリアリスティック〉と呼ばれる写実的な表現を全面に出し、日本に留まらない海外標準の3DCGアニメーションとして、一見してあきらかにこれまでとは違う質感と世界観を獲得している。
ストーリーは原作第1巻の冒頭を膨らませ、前作までをリセットしてゼロから再起動した構成となり、〈アルファ〉を起点にした新たなシリーズ展開を予想させる内容となった。初めて観る人には女性兵士のデュナンと全身をサイボーグ化した男性兵士のブリアレオスという主人公ふたり（美女と野獣?）を中心としたアクション映画に映るだろうし、原作ファンにはマンガと映像の差異、例えば巨漢にモデルチェンジした双角や多脚砲台のシーンはひとつの目玉として映るだろう。すでに海外メディアでは〈アルファ〉の続編を望む声が上がっており、期待値は高い。
次代を担う音楽家たちとのコラボ
ここで改めて荒牧監督による映画版〈アップルシード〉シリーズをふり返ると、精細な映像表現に加えて音楽面で注目が集まることも多かったと思う。それは国内外のエレクトロニック・ミュージックのトップ・アーティストたちが、映像と拮抗して作品を盛り上げてきたからだ。とくにサウンドトラックは各々の時代を象徴する電子音楽のショウケースとして聴かれてきた。1作目はBOOM BOOM SATELLITESの主題曲をはじめ、ポール・オークンフォード、坂本龍一、ベースメント・ジャックス、アクフェンなどが参加した、踊れるビッグ・ビート・アルバム。2作目は細野晴臣監修でHASYMO、コーネリアス、TOWA TEI、rei harakami、m-flo、コシミハルも参加した、グリッチ／エレクトロニカ中心の深淵な音響作品だった。
では3作目となる〈アルファ〉はといえば、基調となっているのは中田ヤスタカ（CAPSULE）が書き下ろしたメインテーマ“Depth”や、冒頭で流れるスクリレックス&アルヴィン・リスク“Try It Out（Try Harder Mix）”（日本盤のみ収録）に象徴されるダブステップ／ベース・ミュージック。そこにヒップホップ、エレクトロなどこれまで以上に多彩なスタイルを統合したコンピレーションに仕上がっている。
スラム街のシーンにぴったりなAKLOのベース強めのラップ。どこか郷愁を誘うパスピエの和風ポップス。シンセがブリブリ鳴るDJ Fumiya（RIP SLYME）のアッパー・チューン。tofubeatsによるチルアウトなトラック。Q;indivi+の壮大なムードを感じさせるエレクトロニカ。80KIDZの激しく展開するエレクトロ。RAM RIDERの劇的なベース・ミュージック。nishi-kenによる変則的なデジタル・ビート。CAPSULEの不穏な電子サウンド。andropの電子的な側面が全面に出たゴリゴリのダブステップ……。映画では時間の制約上、一部分しか流れない楽曲も多いため、サントラで初めてこんな重厚なサウンドだったのかと驚くリスナーも多いに違いない。
最先端の3DCGアニメメーションと、次代を担う若き音楽家たちのコラボレーションの場としての「アップルシード アルファ」。2015年の映画はここから始まる。
MOVIE INFORMATION
映画「アップルシード アルファ」
原作／士郎正宗 監督／荒牧伸志 キャラクターデザイン／山田正樹
脚本／マリアンヌ・クラヴジック 制作／SOLA DIGITAL ARTS
サウンドトラック／unBORDE：WARNER MUSIC JAPAN 配給／株式会社アニプレックス
キャスト／小松由佳、諏訪部順一、悠木碧、高橋広樹、名塚佳織、東地宏樹、玄田哲章、堀勝之祐
2015年1月17日より 全国公開
