平手友梨奈が、ソロ初のアルバム『無表情な表情』をリリースした。所属事務所をクラウドナインへと移して以降、楽曲を通してさまざまな表情を見せてきた彼女の現在地が記された1stアルバムについて、私はこーへにレビューしてもらった。 *Mikiki編集部

平手友梨奈 『無表情な表情』 ユニバーサル(2026)

 

〈無表情な表情〉とは、どんな表情なのか

〈無表情〉な〈表情〉とは、いったいどんな表情だろうか。タイトルから思い浮かぶそんな疑問を抱えながら、平手友梨奈の1stアルバム『無表情な表情』を聴き終えた。

すると、怒りや孤独、依存、衝動、諦め、そして優しさ。このアルバムでは、そんなさまざまな感情が鳴っていた。しかし、それらはひとつのわかりやすい顔へと整理されず、むしろいくつもの感情が重なり合い、曖昧かつカオスなまま漂っている。いつ何時だって平手友梨奈の真意を読み取ることは難しく、それが彼女の魅力でもある。

2024年10月にリリースされた“bleeding love”から、“ALL I WANT”“イニミニマイニモ”などを経て、“Kill or Kiss”に至るまで、先行シングルとして発表されていた6曲はどれも別々の方向で尖った楽曲たちだった。『無表情な表情』というタイトルが発表され、アルバムに収録される先行シングルたちを断続的に聴いた段階では、アルバムの全体像はまだ見えづらかった。曲ごとにサウンドもキャラクターも大きく変わり、それぞれの曲が強い表情を持っていたからだ。

しかし、アルバムとして聴いた時、その印象は大きく変わる。新たに追加された“Shooting Star”“俺らの未来”“イマジナリーフレンド”“あざ”の4曲が、先行シングル群のカオスを一枚の作品として接続しているように思えた。この4曲は、バラバラに発せられていた感情に明確な答えを与えるというより、さまざまな表情を同時に存在させるための接着剤のように機能していると感じたからだ。

端的に言えば、『無表情な表情』とは、内側に渦巻く感情が多すぎるからこそ、それらがひとつの表情として結ばれず、無表情に見えてしまう状態なのだと思う。それは、例えるならば白色光に近い。赤・青・緑が混ざり合い、極限まで重なることで、光は白く見える。怒りや悲しみ、孤独や優しさが同時に鳴っているからこそ、その表情はひとつの感情へと回収されず、結果として〈無表情〉として立ち上がる。『無表情な表情』は、表現者としていくつもの表情を重ねて見せる平手友梨奈に、まさにぴったりのタイトルではないだろうか。

そう考えると、先行シングルの見え方も変わってくる。“bleeding love”は、事務所移籍後初のリリースとして、傷を負ったまま誰かを愛そうとする姿を歌った楽曲であり、平手友梨奈が〈個〉として歌うことの始まりを感じさせる。“ALL I WANT”は、大人な恋について歌うミディアムバラード。“イニミニマイニモ”は、ハーレイ・クインのような奔放さをまとったダンスアンセムでありながら、〈自由奔放であること〉すら演出として消費される時代の空気を感じさせる。

“I’m human”は、ザ・ウィークエンド以降とも言える重厚なベースが響くダークな楽曲で、〈I’m human too, just like everyone else(私もみんなと同じ人間なんだ)〉というフレーズが印象的だ。“失敗しないメンヘラの育て方”は、王道のポップさを持つ恋愛マニュアル的な楽曲で、かわいいながらもギョッとするような毒のある歌詞が続き、通知と監視によって運用される重い恋愛を栽培の比喩でもって描いている。“Kill or Kiss”は、鋭いビートと妖しいシンセの中で、愛情と暴力、甘さと毒の境界線を曖昧にしていく。

 

最後に残る、美しい“あざ”

その上で、新録4曲は特に目を見張るものがあった。

まず、作詞・作曲(作曲はTido、Jurekとの共同)に(sic)boyを迎えた“Shooting Star”には、冒頭のギターの鳴りからも明らかなように、2020年代以降のエモラップの感覚が強く流れていて、言葉が滑るように乗っていくフロウが心地よい。都市の暗がりや孤独を歌っているはずなのに、その声の運びには不思議な軽さがあり、音の上で生きている感覚が伝わってくる。そうして孤独な内面を歌った先でサビに入ると、〈僕は僕を叫び続けていたい〉というフレーズが飛び込んでくる。世界のつまらなさが孤独を引き起こし、傷つき、それでも自分がここにいることだけは叫び続けたい。その切実さは、かつてのアイドル時代にも通じる信念の強さを呼び起こし、同時にソロアーティストとしての確かな表現の深化も感じさせる。

続く“俺らの未来”は、大きなキックとクラップが鳴り響く、平成の青春J-ROCKアンセムを思わせる楽曲だ。映画主題歌のようなスケール感があり、去年話題になったNetflixドラマ「グラスハート」的な、少し照れくさくなるほど真っ直ぐな熱量もある。けれど、歌われているのはかなり個人的な失恋だ。〈本気〉に〈マジ〉とルビを振るような平成的なディテールや、〈大好きだったパスタ/食べにこない?〉という生活感のある誘いが、未練を妙にリアルにしている。そして大サビ前、〈キミには俺しかいないから〉をロングトーンで張り上げて歌う場面は、この曲のハイライトだ。ライブで披露されれば、その一瞬でフロア全体の熱量が一気に跳ね上がる光景がありありと浮かぶ。 

“イマジナリーフレンド”では、アルバムの空気が一気に浮遊する。エレベーターの到着音から始まるイントロの時点で、現実から少しだけ別の階へ移動するような感覚がある。ゆったりと漂うミドルテンポのサウンドは、どこかアリアナ・グランデ以降のポップ感覚や、moumoon的な夜のドリームポップを思わせる。それまでの曲にあった切迫感や攻撃性とは違って、この曲には半分夢の中にいるような柔らかさがある。ただ、通底する不穏さはこの曲にも内包されており、〈Do you still love me?〉という問いが何度も繰り返されるたび、この曲の親密さはむしろ不安定になっていく。甘く、かわいくて、でもどこか怖い。

そして、このアルバムを締めくくる“あざ”は本当に美しい。それまでの電子的でカオティックな空気から一気に表情を変え、生音のピアノとストリングスが静かに鳴る、余白の多いバラードに仕上がっている。面白いのは、ここまで削ぎ落とされた音像の方が、むしろ表情を判別しづらいということだ。普通なら、過度に飾らない歌声から、その人の素の表情が見えてくる。ただ、平手友梨奈の場合は、悲しみなのか、諦めなのか、祈りなのか、感情を簡単には決めさせてくれない。1音1音を確かめるように鳴るピアノや、泣いているように響くバイオリンと呼応して、さまざまな感情が伝わってくる。

特に、〈君が見てる私は/どこにも存在しない〉という一節は本作全体を象徴しているように思えた。誰かが見ている自分、期待する自分、消費する自分。そのどれもが自分であるようで、しかしどこにも本当の自分はいない。だからこそ、最後に残るのは〈あざ〉なのだろう。感情はきれいには回収されず、痛みも簡単には消えない。それでも、何かが確かに起きたことだけは、身体に残った痕のようにそこにある。何があったのかをすべて語るわけではない。けれど、〈あざ〉が残っている限り、何もなかったことにはならない。その読み取れなさと雄弁さが、このアルバム全体を静かに引き受けている。

 

平手友梨奈は綺麗に定義されることを拒み続ける

モナ・リザの微笑みが何百年も〈何を考えているかわからない〉と言われ続けてきたのは、あの表情が単一の感情ではなく、複数の感情が重なった状態だからだとも言われている。笑っているようで、悲しそうで、赦しているようで、見下しているようにも見える。感情が定まらないからこそ、人はその静止した顔の中に、それぞれが感じ取った表情を見てしまう。

これと同じように、『無表情な表情』における平手友梨奈もまた、ひとつの人格へ固定されない。奔放さと危うさが同居し、孤独や衝動、優しさや親しみ、それらすべてが同時に存在しているように思わされる。そのどれもが平手友梨奈らしく、どれかひとつだけが本当の平手友梨奈であるとも言えない。

でも、それでいいのだと思う。むしろ本作は、何者かとして綺麗に定義されることを拒み続けるアルバムなのではないか。感情は整理されず、ジャンルは横断され、人格は流動し続ける。そもそも、誰もが感情や人となりなど整理されないまま日々を過ごしている。『無表情な表情』とは、さまざまな感情が折り重なり、こちらが過去の平手友梨奈に向けていたような〈単なる反抗の象徴〉としての眼差しでは、簡単に規定できなくなった表情なのだ。そして、その規定されなさこそが、2026年の平手友梨奈の現在地だと思う。

 


RELEASE INFORMATION

平手友梨奈 『無表情な表情』 ユニバーサル(2026)

リリース日:2026年6月3日(水)

■初回限定盤A(CD+DVD+フォトブック)

品番:TYCT-69385
価格:8,800円(税込)

■初回限定盤B(CD+DVD)

品番:TYCT-69384
価格:4,950円(税込)

◾️通常盤(CDのみ)

品番:TYCT-60262
価格:3,520円(税込)

TRACKLIST
CD(全形態共通)
1. bleeding love
2. ALL I WANT
3. イニミニマイニモ
4. Shooting Star
5. I’m human
6. 俺らの未来
7. 失敗しないメンヘラの育て方
8. Kill or Kiss
9. イマジナリーフレンド
10. あざ

DVD(初回限定盤A)
“bleeding love”“ALL I WANT”“イニミニマイニモ”“I’m human”“失敗しないメンヘラの育て方”ジャケ写/MV撮影メイキングを収録

DVD(初回限定盤B)
“bleeding love”“ALL I WANT”“イニミニマイニモ”“I’m human”“失敗しないメンヘラの育て方”“Kill or Kiss”MV集、“Kill or Kiss”MVメイキング/アルバムジャケ写メイキングを収録

■商品封入施策
平手友梨奈 1stアルバム『無表情な表情』シリアルナンバー特典
①2026年8月20日(木)LIVE〈アナタタチノカルテ〉特別席でのご観覧ご招待【合計20名様】
②2026年8月20日(木)LIVE〈アナタタチノカルテ〉リハーサルサウンドチェック見学会ご参加【合計30名様】
③2026年6月27日(土)個別オンライントーク会【合計100名様】
④非売品B2告知ポスタープレゼント【合計150名様】
※各賞の開催時間、応募に関するその他詳細は後日ご案内いたします

詳細ページ:https://cloud9pro.co.jp/news/p/15066/

■購入特典
TOWER RECORDS:A4ロゴクリアファイル
※ご予約済みのお客様も対象となります
※商品ページで〈特典あり〉の記載がない場合は特典対象外となります
※複数枚を1回でご注文された場合、商品がすべて揃うまでに特典の保管期間(発売日より1ヶ月)を経過すると、自動的に特典付与対象外となります
※特典は生産過程で生じるスレがある場合がございます。不良ではございませんので交換対象外となります、予めご了承ください
※特典の数には限りがございます。限定数満了次第、終了とさせていただきます
※タワーレコード店舗とオンラインでは特典の運用状況が異なる場合がございます。店舗でのご購入で特典ご希望のお客様は、各店舗に運用状況をご確認ください

 

LIVE INFORMATION
平手友梨奈 武道館ライブ「アナタタチノカルテ」
2026年8月20日(木)東京・日本武道館
開場/開演:18:00/19:00

■チケット料金(全席指定/税込)
VIP席:20,000円
S席:15,000円
A席:10,000円
※電子チケットのみ/同行者登録なし/分配可
※枚数制限:1回の申し込みにつき4枚まで
※年齢制限:6歳以上有料/5歳以下膝上鑑賞無料、ただしお席が必要な場合は有料
※リセール可能。8月13日(木)以降で実施予定

企画/制作:クラウドナイン/LIFE
問い合わせ先:ディスクガレージ https://info.diskgarage.com/

 


PROFILE: 平手友梨奈
2001年6月25日生まれ。
2016年:欅坂46としてデビュー
2018年:映画「響-HIBIKI-」で初主演
日本アカデミ一賞新人俳優賞・日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞新人賞受賞
2020年:ソロ活動開始

■各SNS/HP
公式サイト:https://cloud9pro.co.jp/artist/profile/yurinahirate/
X:https://x.com/Im_YurinaHirate
Instagram:https://www.instagram.com/im_yurinahirate/
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平手友梨奈_音楽
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