2019年、平沢進+会人(EJIN)の〈フジロック〉でのパフォーマンスは、多くの者に衝撃を与える〈事件〉となった。レーザーハープやテスラコイルといった独特の楽器、マスクをかぶった会人(EJIN)のSSHOとTAZZの出で立ち、そしてなにより、その唯一無二の音楽世界。現場では生々しい驚きが観客たちを襲ったのであろうことは想像に難くないが、リアルタイム配信の視聴者たちが興奮した感想を投稿し、Twitterのタイムラインを埋め尽くしていたことが忘れがたい。
そして〈フジロック〉の余韻が残る11月、平沢進+会人(EJIN)は、新作『Juice B Crypts』を携えたバトルスの来日ツアー3公演に出演。事前に平沢が〈BATTLESのためなら、韋駄天で前座しに行く。〉とツイートしていたことから、〈戦法STS〉と銘打たれたそのパフォーマンスには強い思いが込められていたように感じられた。新たに迎えたドラマーのユージ・レルレ・カワグチとのパワフルな演奏は平沢ファンの期待を大きく上回り、もちろんバトルスのファンをもあっと驚かせるものだった。
そのように今年一年、音楽ファンの話題をかっさらい続けてきた平沢進にメール・インタビューを行った。バトルスと彼らの新作について、〈フジロック〉について、そして2020年の2月から4月にかけて大阪と東京で行うライブ〈会然TREK 2K20〉について。
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――バトルスの前座を務められて、いかがでしたか? ツアーを共にされたことについてのご感想や印象的なエピソードをお聞かせください。
「東名阪では特にツアーという感覚はなく、日常的にかかる負荷を超えるものではありませんでした。バトルスにはこちらから挨拶に行こうと思っていましたが、モタモタしているうちに先手を打たれてしまいました。それもドアをノックするでもなく、声をかけるでもなく、ただドアのところにヌっと巨体が立っているのを発見し、慌ててこちらから駆け寄った次第です。挨拶バトルではバトルスに一本取られました」
――バトルスの新作『Juice B Crypts』はいかがでしたか?
「まったく余計なお世話ですが、あの形態でいつネタが尽きるかハラハラしていました。『Juice B Crypts』はそんな心配をする私の粗末な想像力の暗雲を晴らせてくれる作品でした。バトルスは不協和を材料に整合を生むだけでなく、時に整合を適所から外して未知のバランスを生むドリーム・マシンですが、新譜は同じ手法の中から生み出す整合に〈解放〉の任務を背負わせたような性能を備えています」
――平沢さんがバトルスの音楽と出会ったきっかけは〈ギターを髙い位置に構えるミュージシャンを探していたから〉だと「平沢進のBack Space Pass」(以下、〈BSP〉)でお話しされていました。そして、バトルスに〈新しいスタイル〉を感じたとのことですが、その〈新しさ〉について具体的に教えてください。
「ある標準的な演奏フォームをカッコ良しとする伝統的な美意識も新鮮さを失います。私自身現状でカッコ良いとされるギタリストの姿勢には飽きており、音楽のスタイルと有機的な関係の深いフォームもそろそろ音楽スタイルごと転換期を迎えてもいいのではないかと感じていました。そこで、ニューウェイヴの興隆と共に長髪から短髪に変わったように、高い位置にギターを構えて新しい音楽スタイルを完成させている人は居ないかと検索をしたところ、ピンポーンと鳴ってバトルスが出てきました。
バトルスの新しさは〈オーガニック・デジタル〉とでも呼べそうなその質感です。非常に乱暴な言い方をすると、多くの電子的なニュアンスを持つ音楽は、扱う音源単位の整合化を経て得られるトータルな同期感覚が特徴なのに対して、バトルスは音源単位の整理度は低く、あるいは未整理のまま、時間軸に正確に打たれたタグにそれらを配置したという感覚です。それは意図したニュアンスに加え、時に偶発的なバランスを発生させます。総論的には同期しており、各論的には誤差や揺れが渦巻いている。この奇妙な半機械感を横軸に、縦軸に生ドラムが加わるという肉体性。これがバトルスの新しさです。言うならば、有機栽培された作物を最新テクノロジーによる配送システムでお届けする通販です」
――平沢さんがバトルスの音楽に感じるのは共感でしょうか? それとも未知の音楽と出会った驚きのほうが大きいのでしょうか?
「共感であると同時に〈お隣さんは同じ肥料であんな花を咲かせている〉といった驚きです」
――〈BSP〉ではバトルスの魅力について、〈デジタル音源を使いながらギタリストとしてアプローチしている〉とお話しされていました。ギタリストの音楽とキーボーディストの音楽、その本質的なちがいはなんだと思われますか?
「質問を、ギタリストの打ち込み音楽とキーボーディストの打ち込み音楽の本質的なちがいは?というふうに置き換えてよいなら、どちらも本質的なちがいはそれほどなく、むしろそれぞれの楽器奏者がそれぞれの楽器奏者であることの執着をどれほど捨てられるかによって質感は変わる。ということでしょうか」
――〈戦法STS〉について教えてください。〈BSP〉ではバトルスの前座を務めるにあたり、形態を合わせるためにドラマーが不可欠だったとおっしゃっていました。そのことにも表れているとおり、バトルスの音楽においてはジョン・ステニアーのドラム・プレイが非常に重要な役割を担っています。バトルスのドラムやリズム、ビートについて、平沢さんはどんなことを感じますか?
「〈戦法STS〉でドラマーを加えたのはバトルスと質感を合わせるためです。ジョン・ステニアー氏はバトルスの要としてあの釈然としない揺らぎをものともせず垂直に交わる秩序の怪物です」
――地下鉄の中でドラムを叩いているユージ・レルレ・カワグチさんの動画をYouTubeで観たことが、今回カワグチさんが参加されたことのきっかけだということでした。バトルスもカワグチさんについても、そういったアティテュードやスタイルに平沢さんは注目されているように思います。それはなぜなのでしょう?
「昔から私はただ音楽が好きという理由で音楽をやっている人に関心がありません。音楽に至る動機によって音楽の質は変わるものです。どんな要求でも正確にこなしてくれるプレイヤーと、背景に音楽以外の何かを感じるがあまり上手ではないミュージシャンのどちらを選ぶかといわれれば、後者です。常にそうしてきました。その点ユージ・レルレ・カワグチは良いバランスです」
――またバトルスの前座を務めるにあたって、“死のない男”を1曲目とし、ステージを彼らに渡せるような曲順を考えたとおっしゃっていました。その他、音楽的な面で〈戦法STS〉ではどのようなアプローチをされましたか?
「〈熱せず冷まさず〉です」