主人公、ナレーター、監督を一人で務めたミュージカル映画のようなアルバム
デビュー作の翌年にリリースされた3部構成、7分に及ぶ大曲“Genesis.”の時点で、レイに音楽的野心が漲っているのは明らかだった。しかしそれを踏まえても、新作での振り切り方には驚嘆せずにいられない。R&B、ヒップホップ、ポップ、クラブミュージック、スタジアムバラッド、ゴスペル、ビッグバンドによるジャズやソウル、さらにはディスコハウスなどが目くるめく勢いで展開し、映画音楽やミュージカルを想起させるドラマティックなストリングスが全体を彩っている。
巡りゆく四季をモチーフにした4部構成のコンセプトアルバムであり、全17曲73分と大ボリューム。一曲ずつ聴いても楽しめるが、やはり最初から最後まで通して聴くことで初めて意味を成す作品だろう。〈人々のアテンションスパンが短くなっているので、曲は出来るだけコンパクトに〉という現代の常識に真っ向から盾突く強烈な野心作である。
秋から始まり夏へと辿り着く本作のストーリーラインは明快で、失恋や成功後の心無いバッシングでどん底の状態にいる主人公が最終的には希望に向かって手を伸ばしていく姿を描いている。面白いのは、随所にメタ視点の語りが入ること。例えばソウルの伝説アル・グリーンが参加した“Goodbye Henry.”は、「これは悲しい曲、ハッピーに聴こえるかもしれないけど、全然そんなことない。(略)この曲のタイトルは“Goodbye Henry.”です」という語りで幕を開けるのだ。
まるでこのアルバムは、レイが主人公、ナレーター、監督の一人三役を務めるミュージカル映画を観ているようである。実際、彼女がアルバムに映画的な手触りを求めていたのは、劇伴さながらの壮大なストリングスがフィーチャーされた“Click Clack Symphony.”で、映画音楽の巨匠ハンス・ジマーを召還していること、そして最後の曲“Fin.”で映画のエンドロールさながらに関係者全員の名前を挙げて感謝を述べていることからも明らかだろう。
帰ってこられる安全な場所〈家族〉を求めて
黄金期のモータウンさえ想起させるサウンドを持つ大ヒット曲“WHERE IS MY HUSBAND!”は、アルバムのクライマックスである第4幕〈夏〉パート(13~17曲目)の冒頭に置かれている。理想の結婚相手が現れるのを待っているという歌詞のストーリー自体は、レイ本人が言うとおり〈古風〉かもしれない。だが、〈なんで彼は私を早く見つけないの? 捕まえたら説教もの、早く連絡してこいって誰か伝えて!〉と、女性の主体性と男性の情けなさが強調されている点は現代的である。曲名の最後が〈?〉ではなく〈!〉であることが象徴するように、レイは徹底的に強気だ。
興味深いのは、アルバムを通して歌われる再生の物語において、結婚が重要な意味を持っていることである。これは、レイにとって家族とは、人生における何より重要なセーフティネットだという意識の表れだろう。前述の通り、下積み時代に人間不信に陥ってもおかしくないような辛い経験をしてきた彼女は、独立後、両親をマネージャーに据えた。残酷なこの世界の中で、彼女が無条件に信頼できるのは家族なのである。
実際、このアルバムにおいて家族というモチーフは繰り返し現れる。レイに励ましの言葉をかける祖父母たちの音声はたびたびアルバムに挿入され、終盤における歓喜のディスコハウス“Joy.”には妹でシンガーのアマ(Amma)とアブソルートリーがフィーチャリングされている。レイにとって、家族とは苦難を乗り越えるのに欠かせない存在であり、何があっても最後には帰ってこられる安全な場所なのだ。だからこそ、家族という単位を未来へと繋いでいく行為である結婚というテーマが、本作のクライマックスに自然と収まったのだろう。