ブレイクの代償としてのワイルドなパーティー・ライフに疲弊した二人は、癒しの旅路で何を発見した? 世界の仲間たちと共に雑食性を深化させた新作には、際限なきイマジネーションが羽ばたいている!!
2025年のポップ・シーンにおいて、ほとんど最優秀新人と言ってもいいほどのブレイクで、カトパコことカトリエル&パコ・アモロソは世界にその名を広めた。
故郷であるアルゼンチンにて水面下で腕を磨いていた才能溢れる二人の悪童は、世界中のスタジアムを回りながら取材やファン・サーヴィスに応える毎日を過ごすことに。フレッド・アゲインと夜な夜なスタジオに入ったと思えば、パーティーの匂いを嗅ぎ取っては、地球の反対側の日本にだって足を伸ばす。昨年の〈フジロック〉で〈GREEN STAGE〉のトップバッターとして出演し、深夜にサプライズ・ライヴまでをこなす姿は、その働き者っぷりを象徴していた。直後にケンドリック・ラマーのツアーに帯同し、タイラー・ザ・クリエイターの主催フェスに参加。そして絶好調のままフル・アルバム『TOP OF THE HILLS』を年末に華々しく発表……とはならなかった。
端的に言って、彼らはパンクしたのだ。度重なるスケジュールに疲弊した彼らは『TOP OF THE HILLS』のリリース計画を白紙に戻す。そしてしばしの休暇を挟み、完成させたのが、このたび日本盤CDとしてリリースされたニュー・アルバム『FREE SPIRITS』だ。それまでは昂る野心を放っていた二人が穏やかで素朴な表情を見せる本作のジャケットは、その自己言及的かつセラピーチックな内容を正確に描写している。
メンターとして重要な役割を果たしたのが先行曲“Hasta Jesús Tuvo Un Mal Día”に参加したスティングだ。架空のヒーリング施設〈フリー・スピリッツ・センター〉の所長をスティングが務め、カトパコはそこで浄化を経験するという設定でアルバムは進行。ポリスの“Roxanne”を思わせる裏打ちのギターから始まる“Hasta Jesús Tuvo Un Mal Día”で、〈ねぇ、まだ諦めないで/イエスにだって悪い日はあったんだから〉と二人は歌い、スティングは〈それでも彼は心の声に従ったんだ/きっと道は開ける〉と応答する。多忙な生活を顧みたアルバムのなかで、それは啓示のように響くのだ。
また、本作ではアルゼンチン出身で現在はLAを拠点とするフェデリコ・ヴィンドヴァーが、プロデューサーとして大きな貢献を果たしている。イェやファレル・ウィリアムズなど名だたるスターの作品に参加する彼が、シンセサイザーの音色やヴォーカルのアレンジなど随所で手腕を発揮。ジャック・ブラックを迎えたミッドテンポのサルサ“Goo Go Ga Ga”にアンダーソン・パークと共にメレンゲを歌う“Ay Ay Ay”、強固な絆で結ばれているコラボレーターのフレッド・アゲインが不穏なビートを操る“Lo Quiero Ya !”、さらにはEDMにファンク、ハード・ロック……。ラテン・トラップのデュオとして登場したカトパコだが、その枠を越えていく二人の雑食性は衰えることを知らない。
そうした節操のない雑食性は、カトパコのキャラクターを素直に反映している。それは慌ただしい毎日のメタファーでもあるが、自分たちがアルゼンチンの生み出してきたポップスターたち――イリヤ・クリアキ&ザ・ヴァルデラマスやロス・ファブロソス・カディジャクスらの正統な後継だという主張でもある。この2組はミクスチャー・ロックが全盛の90年代に登場し、メキシコのカフェ・タクーバやブラジルのシコ・サイエンスと同じ時代のフィーリングを共有していた。彼らの息子世代にあたる現行のラテン・ミュージシャンが、トラップやレゲトンを通過したうえで、サウンドを拡張させている現象は非常に興味深い。カトパコもまた先駆者たちと同様にみずからのイマジネーションに際限を設けないのだ。
ジャンルに振り回される素振りを見せつつも、めくるめく展開のなかで固有のアイデンティティーやリアルな感情を描くカトパコ流の柔軟性が、この『FREE SPIRITS』には刻まれている。アルゼンチンないしラテン音楽の雑食性に育まれた〈恐るべき子どもたち〉として、これからも二人は自分たちの物語を進めていくに違いない。
カトリエル&パコ・アモロソの2025年のEP『PAPOTA』(5020)
『FREE SPIRITS』に参加したアーティストの関連作を一部紹介。
左から、ジャック・ブラックが在籍するテネイシャスDの2018年作『Post-Apocalypto』(Columbia)、アンダーソン・パークが在籍するノーウォーリーズの2024年作『Why Lawd?』(Stones Throw)、スティングのライヴ盤『3.0 Live』(A&M)、フレッド・アゲインの2025年作『USB002』(Atlantic)
