
今という時代にもたくさん可能性がある
――なるほど、素敵なエピソードをありがとうございます。では最後の質問です。私がこの映画を観てもっとも感慨深かったのは、エレファント6のメンバーが自然に集まってコミュニティを作り、お互いを刺激し合っていたことです。そこにはピュアなDIY精神があって、ほとんど遊びの延長のようにすら見えます。一方で、現在のインディーシーンはずいぶん変わりましたよね。今の若いミュージシャンはソーシャルメディアもあり、自分自身をどのようにブランディングするかを戦略的に考えなければなりません。もちろん、そこにはメリットもありますが、一方で大きなプレッシャーにもなっているのではないかと私はときどき感じるんです。そこでお聞きしたいのですが、エレファント6の当時のコミュニティのあり方は、現代のアーティストに対しても何かインスピレーションを与えると思いますか。
「なるほど、いい質問ですね。(少し考えて)まず、エレファント6の始まりは、その時代だからこそのものだったと思います。当時はまだインターネットもなく、ソーシャルメディアも携帯電話もありませんでしたし、デジタルレコーディングもほとんど存在していませんでした。録音するには特殊なテープマシンが必要で、カセットやオープンリールテープを使い、マイクやマイクスタンドを立て、本物の楽器を演奏して録音していました。今のようにパソコンのなかにあるソフト音源やMIDI、バーチャル楽器だけで完結する時代ではなかったんです。当時の制作には、手を動かして作っている感覚がありました。その身体性や手触りそのものが、自然と遊び心を生み出していたのだと思います。音楽を作るという行為そのものが、もっと身体的な体験だったんですよね。
一方で、彼らに戦略がまったくなかったかと言われれば、そうでもないと思います。ただ、彼らは音楽業界の一般的なやり方とはまったく違う道を選びました。まずマネージャーを探したり、レコード会社に売りこんだりするのではなく、自分たちが作りたいものを先に作ってしまう。そして世のなかへ発表する。すると、その作品を知ったレコード会社のほうから声がかかる。そういう順番だったんです。誰かの許可を待つのではなく、まず自分たちで作るという姿勢でした。
もちろん、作品を届ける方法も今とはまったく違いましたよね。メールオーダーのカタログがあったり、地元の新聞や雑誌で半年に一度くらい記事になったりする程度でした。でも今はスマートフォンがあって、毎日、場合によっては一日に何度も投稿し続けることが求められます。
でも私は、精神性は今も変わっていないと思うんです。ただ、それを実現するための仕組みや手段が、大きく変わっただけなんです。もちろん、昔を懐かしんで〈あの頃のほうが良かった〉と思うことはできますし、実際、そう思える部分もあります。でも同時に、今という時代にも、たくさんの可能性があると私は思っています」
MOVIE INFORMATION
映画「エレファント6レコーディング・カンパニー」

監督・製作・撮影 :チャド・ストックフレス
出演 :ロバート・シュナイダー、ビル・ドス、ウィル・カレン・ハート、ジェフ・マンガム ほか
2022年/アメリカ/英語/93分/カラー/ビスタ/5.1ch
原題:The Elephant 6 Recording Co.
日本語字幕:大熊香奈/字幕監修:坂本陽一(ワイキキレコード)
提供:トーキーマジック、キングレコード/配給:キングレコード
©2022 Elephant Films LLC All Rights Reserved.
2026年7月31日(金)シネマート新宿、アップリンク吉祥寺、シネマリスほか全国順次
公開オフィシャルサイト:https://elephant6-movie.jp/index.html