音楽制作において、クリエイティビティとは何だろうか。DIY精神とは? もしあなたがそんな問いに関心があるならば、音楽ドキュメンタリー映画「エレファント6レコーディング・カンパニー」は打ってつけの一本だ。
本作でフォーカスが当てられるのは、1990年代なかばから後半にかけてアップルズ・イン・ステレオ、エルフ・パワー、オリヴィア・トレマー・コントロール、そしてニュートラル・ミルク・ホテルといったバンドを輩出し、ジョージア州アセンズをおもな拠点としたインディペンデントの集団、エレファント6。彼らはレーベルであると同時に多彩な才能を擁した音楽コレクティブであり、音楽的には90年代USインディーロックシーンにおいて1960年代のサイケポップ再評価とローファイの美学を接続したことが重要だったと見なされているが、何よりもそもそもの態度として、徹底したDIY精神でつながったコミュニティでもあった。
映画では、エレファント6のどのようなところが特別だったのかがわかりやすく、ポップなタッチで紐解かれていく。活動初期の彼らが仕事も持たずに寝食をともにしながら音楽制作をしていたことに驚き、そして、そのインディー精神がアメリカ各地に広がっていったことに胸がすく想いがする。エレファント6は音楽業界の既存のルールに囚われずに活動したことで、アメリカ中の、いや世界中の自己表現を志すキッズたちを鼓舞した存在だったのだ。
映画はエレファント6の中心人物のひとりだったロバート・シュナイダーの提案で始まり、監督を務めたチャド・ストックフレスによって10年がかりで制作された。完成した直後の2019年にはエレファント6のDIY精神に則ってレンタルビデオ形式で限定的に貸し借りされたが、追加の映像も加えてアメリカでは2022年に公開。熱い反響を得た本作が、日本でもついに劇場公開となる。
エレファント6との関わり、そのユニークさ、そして彼らのアティチュードが現代の音楽シーンにどのようなインスピレーションを与えうるか。チャド・ストックフレス監督に話を聞いた。

エレファント6のDIY精神への共感
――まずはチャド・ストックフレス監督ご自身について伺います。現在は映像作家として活動されていますが、子どもの頃から音楽が好きだったそうですね。どんなものを聴いていたんですか?
「私は本当に田舎の小さな町で育ったんですが、家ではいつも音楽が流れていました。ラジオがつけっぱなしだったり、レコードがかかっていたり、そんな家庭でした。両親とも音楽が大好きで、父はバンドのPAをしていました。だから子どもの頃から、たくさんのコンサートやショーに連れて行ってもらいました。私の周りにはいつも音楽があって、感情的な結びつきを強く感じていました。
本当にいろいろな音楽が好きでしたし、10代を迎えた90年代にはオルタナティブロックが大きく盛り上がっていました。大学生になる頃にはインディーシーンも本格的に広がってきて、そうしたバンドにも夢中になりました。加えて、フェラ・クティのようなアーティストやアフロビート、レゲエ、それからジャズフュージョンもよく聴いていました」

――熱心なリスナーだったんですね。ただ、エレファント6についてはロバート・シュナイダーさんと出会うまで知らなかったそうですね。彼らの存在を知っていくなかで、どんなところに惹かれましたか?
「私はケンタッキー州レキシントンに住んでいたのですが、そこはケンタッキー大学がある町で、アーティストやミュージシャンが集まる独自のクリエイティブなコミュニティがありました。そこへ、数学を学ぶためにロバート・シュナイダーが引っ越してきたんです。
彼は私たちの〈小さな太陽系〉にすっと入りこんできたような存在でした。それまで彼はデンバーで活動していましたが、レキシントンへ来ると、そのまま私たちのシーンに溶けこんでいったんです。そしてすぐに、ロブ・ビーティとユリシーズというサイドプロジェクトを立ちあげました。ロブは世界的にも評価されているアルバムアートワークを手がける、本当に素晴らしいアーティストです。
私が最初にロバートに惹かれたのは、音楽よりも彼の人柄でした。とにかく明るくてエネルギッシュで、少しハイテンションなくらいです(笑)。何かを作っているときの興奮がそのまま伝わってくるような人で、周りが取り組んでいることにも本気で興味を持って、いっしょに盛り上がってくれるんですよ。
それに、彼には身近な人たちを自分の世界へ自然と巻きこんでいく力があるんです。何か作るときも、プロを探して依頼するというより〈自分たちでやればいいじゃないか〉という発想なんですよね。それは彼が宅録をしてきた背景ともつながっていて、〈わざわざ専門家に頼まなくても、自分たちで作れる〉というDIY精神そのものなんです。その感覚は私にもすごく共感できました。私たちも手作りのアートや映像作品をDIYで作っていたので、〈ああ、この人とは感覚が近いな〉とすぐに思えたんです。
その後、私はアップルズ・イン・ステレオのライブをマルチカメラで撮影した映像作品を制作したんですが、それをロバートがとても気に入ってくれました。するとロバートから、〈君の映像作品が本当に好きなんだ。僕が参加しているエレファント6っていうバンドコミュニティは知ってる?〉と声をかけられました。でも、その時点では私はほとんど知らなかったんです。
すると彼は、〈僕たちについてのドキュメンタリーを作ってみない? これまでにも挑戦した人はいたけれど、君にはこの作品に合う人柄と美意識があると思うんだ〉と言ってくれました。それは本当に驚きで、とても光栄でした。そして、そこから私の旅が始まったんです。エレファント6のバンドをひとつひとつ知り、歴史を学び、それぞれの関係性を少しずつつなぎ合わせていくことになりました」

〈コーネリアスの曲で歌っている彼〉に会いたくて
――映画を観ると、エレファント6を始めた高校からの友人4人――ビル・ドス、ウィル・カレン・ハート、ジェフ・マンガム、ロバート・シュナイダー――の個性の違いがとても重要だったと感じました。それこそ、ビートルズのように。
「私もそう思います。歴史を振り返ると、ときどきこういう奇跡的な巡り合わせがありますよね。子どもの頃からの友人同士だったり、何らかの縁で出会った人たちが、それぞれ異なる個性や得意分野を持ち寄る。そして、それらが組み合わさることで、一人ひとりの力を足し合わせただけでは生まれない、大きな何かが生まれます。彼らもまさにそういう存在だったと思います。
もうひとつ、彼らの大きな強みは周りの人を巻きこむ力でした。先ほども話したように、身近にいる人たちを自然に自分たちの創作へ引きこむのが本当に上手だったんです。その結果、作品には新しいアイデアや複雑さが加わり、どんどん豊かなものになっていきました。
だからこそ、エレファント6というシーンやコミュニティは、子ども時代を過ごしたルイジアナ州ラストンから始まり、その後、何人かが移り住んだジョージア州アセンズや、ロバートが移ったデンバーでも、さらに大きく花開いていったんです。
それぞれの土地に種をまいていくようなものだったんです。そして、その種はちゃんと芽を出し、花を咲かせました。とりわけアセンズでは、数えきれないほどのミュージシャンやバンドが集まり、まるで大きなカーニバルのような、とても豊かな創造の場が生まれました。それぞれが独立した活動をしながらも、どこかでつながっている。そんな独特のコミュニティだったんです。
私は、そこがこの集団のいちばん特別なところだと思っています。彼らだけが美しい作品を生み出したわけではなく、周りの人たちにも創作する力を与え、それぞれが自分自身のアートを生み出せるよう後押ししていたんです」
――なるほど。私が映画を観ていて興味深かったのは、彼らが〈アウトサイダー〉、はみ出し者だったと語られている点です。私からすると、みんな豊かな個性と才能があって、魅力的な人ばかりだと思えるんですが、アメリカの田舎町では彼らのようなアート志向のキッズたちは〈アウトサイダー〉として扱われたのでしょうか。
「そういった部分はあると思います。たとえば私自身もアメリカ南部の小さな町の出身ですが、南部には独特の文化があって、ときにはその文化に対して反発しなければならないと感じることがあるんです。とくに創造的な人には、そういう資質を持った人が多いと思います。より閉鎖的で保守的で、自分たちの価値観と異なる考え方をあまり受け入れない文化のなかにいると、自分がその文化と対立する立場に置かれてしまう。すると、とても孤立した気持ちになるんです。
でも、やがて自分と同じように感じている人、自分と同じ孤独を抱えている人に出会う。その瞬間に、とても強い絆が生まれます。そのつながりは、とても親密で、とても個人的なものなんです。優れた芸術というのは、まさにそういうところから生まれるのだと私は思っています。自分の内側にある、とても親密で個人的な世界を見つめ、その内なる世界を誰かと分かち合おうとすることにこそ、素晴らしい作品が生まれる源泉があるのだと思います」


――ええ、エレファント6にはまさにそういうケミストリーが感じられますね。ちなみに映画のはじめのほうでコーネリアスの楽曲が流れますが(“CHAPTER 8 〜Seashore and Horizon〜”)、映画を制作するなかでエレファント6と日本のつながりについて発見することはありましたか?
「じつは面白い話があって、ロバートがケンタッキーへ引っ越してきたとき、最初に仲良くなったのは僕ではなく、僕の親しい友人たちだったんです。その友人たちから、〈彼はアップルズ・イン・ステレオっていうバンドをやってるんだ。知ってる?〉と聞かれたんですが、僕は知らなかったんですよ。すると今度は、〈じゃあニュートラル・ミルク・ホテルのアルバムをプロデュースした人だよ〉と言われたんですが、それも知らなくて。それから、〈コーネリアスの『Fantasma』に入っている、あの曲で歌っているのが彼なんだよ〉と教えられたんです。それを聞いて、〈えっ、本当に!? あの曲、大好きなんだけど!〉ってなったんです(笑)。
じつは、それが僕にとってロバートの仕事をはじめて意識した瞬間でした。当時は、あの曲で歌っているのはショーン・レノンか誰かだと思いこんでいたんです。でも、本当に美しい曲だと思っていたので、それがロバートだと知って、〈ぜひ会ってみたい〉と一気に気持ちが高まりました。もともとコーネリアスのアルバムが大好きでしたからね。
それから彼らについて知っていくうちに、ロバートと、当時のパートナーでありアップルズ・イン・ステレオのドラマーでもあったヒラリー・シドニーが、コーネリアスに招かれて日本でいっしょにレコーディングをしたことも知りました。その経験は、ふたりにとって本当に特別な思い出になったようです。
アメリカのミュージシャンにとって、日本で評価されることには特別な意味があると思います。日本の人たちは音楽に対する審美眼が優れている、というイメージをみんな持っていますからね。だから、日本のリスナーに受け入れてもらえることは、本当に光栄なことなんです」

今という時代にもたくさん可能性がある
――なるほど、素敵なエピソードをありがとうございます。では最後の質問です。私がこの映画を観てもっとも感慨深かったのは、エレファント6のメンバーが自然に集まってコミュニティを作り、お互いを刺激し合っていたことです。そこにはピュアなDIY精神があって、ほとんど遊びの延長のようにすら見えます。一方で、現在のインディーシーンはずいぶん変わりましたよね。今の若いミュージシャンはソーシャルメディアもあり、自分自身をどのようにブランディングするかを戦略的に考えなければなりません。もちろん、そこにはメリットもありますが、一方で大きなプレッシャーにもなっているのではないかと私はときどき感じるんです。そこでお聞きしたいのですが、エレファント6の当時のコミュニティのあり方は、現代のアーティストに対しても何かインスピレーションを与えると思いますか。
「なるほど、いい質問ですね。(少し考えて)まず、エレファント6の始まりは、その時代だからこそのものだったと思います。当時はまだインターネットもなく、ソーシャルメディアも携帯電話もありませんでしたし、デジタルレコーディングもほとんど存在していませんでした。録音するには特殊なテープマシンが必要で、カセットやオープンリールテープを使い、マイクやマイクスタンドを立て、本物の楽器を演奏して録音していました。今のようにパソコンのなかにあるソフト音源やMIDI、バーチャル楽器だけで完結する時代ではなかったんです。当時の制作には、手を動かして作っている感覚がありました。その身体性や手触りそのものが、自然と遊び心を生み出していたのだと思います。音楽を作るという行為そのものが、もっと身体的な体験だったんですよね。
一方で、彼らに戦略がまったくなかったかと言われれば、そうでもないと思います。ただ、彼らは音楽業界の一般的なやり方とはまったく違う道を選びました。まずマネージャーを探したり、レコード会社に売りこんだりするのではなく、自分たちが作りたいものを先に作ってしまう。そして世のなかへ発表する。すると、その作品を知ったレコード会社のほうから声がかかる。そういう順番だったんです。誰かの許可を待つのではなく、まず自分たちで作るという姿勢でした。
もちろん、作品を届ける方法も今とはまったく違いましたよね。メールオーダーのカタログがあったり、地元の新聞や雑誌で半年に一度くらい記事になったりする程度でした。でも今はスマートフォンがあって、毎日、場合によっては一日に何度も投稿し続けることが求められます。
でも私は、精神性は今も変わっていないと思うんです。ただ、それを実現するための仕組みや手段が、大きく変わっただけなんです。もちろん、昔を懐かしんで〈あの頃のほうが良かった〉と思うことはできますし、実際、そう思える部分もあります。でも同時に、今という時代にも、たくさんの可能性があると私は思っています」
MOVIE INFORMATION
映画「エレファント6レコーディング・カンパニー」

監督・製作・撮影 :チャド・ストックフレス
出演 :ロバート・シュナイダー、ビル・ドス、ウィル・カレン・ハート、ジェフ・マンガム ほか
2022年/アメリカ/英語/93分/カラー/ビスタ/5.1ch
原題:The Elephant 6 Recording Co.
日本語字幕:大熊香奈/字幕監修:坂本陽一(ワイキキレコード)
提供:トーキーマジック、キングレコード/配給:キングレコード
©2022 Elephant Films LLC All Rights Reserved.
2026年7月31日(金)シネマート新宿、アップリンク吉祥寺、シネマリスほか全国順次
公開オフィシャルサイト:https://elephant6-movie.jp/index.html