面影ラッキーホール(現O.L.H./Only Love Hurts)のアルバム『代理母』『音楽ぎらい』のアナログLPが、2026年10月7日(水)にタワーレコード限定で再発される。
1998年に紆余曲折を経てリリースされたバンドのメジャーデビューアルバム『代理母』。その翌年に昭和の絵師・上村一夫のイラストをジャケットに用いて発表された2ndアルバム『音楽ぎらい』。今回、この2作品が帯付きのカラーヴァイナル(クリアピンク)、さらにaCKyとsinner-yangの対談による〈特別書き下ろしセルフライナーノーツ〉が封入された特別仕様となってリイシューされる。
そんな名盤2作の再発を記念して、面影ラッキーホールをこよなく愛するシンガーソングライターの小林私に特別寄稿してもらった。 *Mikiki編集部
ジャケット、アルバムタイトル、曲名、その全てに惹かれた
『代理母』と『音楽ぎらい』。この二枚の名盤を語るにはあまりにも余白が無さすぎる。本来であれば一曲ずつ、一行ずつ、一小節ずつ語らねばならないのだ。おのれタワレコめ……おのれMikikiめ…一枚ずつくれ……限定盤をだ……。
さて、俺が面影ラッキーホールを初めて聞いたのは『代理母』に収録されている“今夜、巣鴨で”である。ジャケット、アルバムタイトル、楽曲タイトル、その全てに惹かれて再生した。開幕、爆発のようなギターで既に俺の心は鷲掴み。1分弱のソウルフルなイントロを浴び続けて一言目。
今夜、巣鴨で
愛しいおじいちゃんと
(“今夜、巣鴨で”/『代理母』収録)
もうメロメロなのである。
そして面影ラッキーホールの楽曲タイトルも強烈だ。
“好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた”
“あんなに反対してたお義父さんにビールつがれて”
“たまプラーザ海峡”
“ひとり暮らしのホステスが初めて新聞をとった”
“給料日さん”
このタイトルだけで詩として完成されている。強い題目は時に諸刃の剣で、そのまま楽曲に対するハードルとなる。想像力を掻き立てられ、期待に胸が膨らむ。〈雨〉だの〈恋〉だのどう転んだっていいタイトルではないのだ。こんなにも詩情があるタイトルで中身がへこたれていたら、そりゃあガッカリなんてもんじゃない!
おそるおそる再生してみれば、天晴。明るくファンクでいてスモーキーなサウンド、ビールっ腹で目の据わった一見怖そうな、でもきっと楽しいオッサンだ!と確信出来るボーカル、強い歌詞、それを支える強いメロディ!
ここまで取り揃えられている美しく完成された音楽は本来、つい襟を正して、こっそりテーブルマナーなんか尋ねてみちゃったりするものだが、面影ラッキーホールはあくまで下町の居酒屋で、綿が薄い座布団で、お座敷で、あくまでドカッと胡坐に瓶ビール。でもお通しからちっちゃいアイスクリームまで極上に美味い。そんな愛嬌までも兼ね備えたアルバムなのだ
面影ラッキーホールの歌詞に見る絶妙な〈取り合わせ〉
ところでやっぱり歌詞の話をしたいよ。今更、面影ラッキーホールの歌詞の話だなんて、語り尽くされてきたわけで、語り切れぬわけで、でもやっぱりしたいわけ。誰が言ってんねんって話かもしれんが、それはさあ、頼まれたという一点で俺に優位がさあ。小林私の言葉に需要がさあ。ねえ、Mikikiさん? Mikikiさんもそうだそうだと言っていますよ、きっと。
とはいえ物語詩としてムードやテーマを語るのはあまりに二番煎じのことだろうから、ここでは敢えてミクロ的に野暮ったく語りたいと思う。かっちょいい物語詩というのは、単にかっちょいい話をすれば良いわけではない。かっちょいい伝え方というものがある。
大きく二つ、〈取り合わせ〉〈羅列〉という観点で書いていく。
まずは〈取り合わせ〉から。
モーターの廻る
チューリップが開いているその丘で
(“おらんだ花嫁”/『音楽ぎらい』収録)
〈モーターの廻る〉で想起される無機質な映像が、その後に続く〈チューリップ〉〈丘〉の色彩をやにわにビビッドに押し上げる。牧歌的な風景を、どこか退廃的でトキシックなものに感じさせるわけだ。こうなると〈開いている〉だなんて、エロティックにしか思えなくなる。
道玄坂をのぼる 握りしめたドライヤー
2枚のドリンクチケットでとりあえず飲むのエビアン
(“東京(じゃ)ナイトクラブ(は)”/『音楽ぎらい』収録)
〈道玄坂〉〈エビアン〉とは粋でしょう。俺はエビアンのピンク色ってちょっと不気味に感じるのだが、皆はどうだろう。日本の、東京の、渋谷の、道玄坂、とちょっとした背伸びや高揚感を抱えて夜道をのぼる。そこで視界に入ってくるのが〈エビアン〉。酒では一足飛びになる勇み足を、飲み慣れない硬水があくまで浮遊感を保たせながら一歩ずつクラブに足を運んでくれる、そんな情景が浮かぶ。
夜汽車の汽笛が
青い梅 揺り落とされて
しそにまみれて 赤くなる
(“おんなの線路標”/『代理母』収録)
まず〈汽笛が〉〈青い梅〉は文章として繋がっているわけではない。ただ、曲としては続けて聞こえてくるので俺は取り合わせに感じた。夜景の鮮烈な光から一気に〈青い梅〉〈しそ〉の薄紙一枚隔てたようなハーフトーンになる。
初めて聞いた時はいたく感動した。そもそも〈しそ〉を歌詞に持ってくることが難しいのに、それに飽き足らず詩情が満ち満ちているわけで。ここまでの歌詞で夜を描き続けていることも重要で、夜景を田舎のハーフトーンに転換することで、彩度は落ちているのに眩しいのだ。
言葉やフレーズの〈羅列〉がヤバい
ここからは〈羅列〉についてまだまだ語る。なんでかってゆうとぉ、文字数上限オーバーしてもいいってゆわれたからぁ。ちなみにもう普通に超えている。
歌詞における羅列というのは、ありがちでいて本当に難しい。一つでもミスがあると一気に全部ダサくなる危険性がある。面影ラッキーホールは、それをいとも軽やかに描くのだから凄まじい。
100万人のポルノスター 挑発しておくれ
100万人のポルノスター 胸を揺らせて
100万人のポルノスター 奥行きがあるぜ
100万人のポルノスター 吸い取っておくれ
100万人のポルノスター 日の出づる拠で
100万人のポルノスター けつをふりふり
(“100万人のポルノスター”/『音楽ぎらい』収録)
ヤバいね。羅列というのは一曲の内で繰り返されるパターンを担う歌詞の変化でもあるので、起承転結でありがちだ。ありがちなのはそれで成立するからであってダメなことでは全くない。ただこの曲は起転転転だ。
最初の二行はしっかり〈起〉を担っている。最初の動作として〈挑発しておくれ〉なのだから。その〈挑発しておくれ〉が同パターンの一番手なので〈吸い取っておくれ〉も一番手になるべきで、何故かその代わりに突然〈奥行きがあるぜ〉が入ってくる。〈奥行きがあるぜ〉ってなんだよ。〈転〉すぎる。
そして〈結〉にあたって〈挑発しておくれ〉を繰り返す凡手もあるし〈奥行きがあるぜ〉は強いワードなのでこれを持ってきてもいい。当然〈~しておくれ〉を新しく追加したっていいのだ。
実際は〈日の出づる拠で〉〈けつをふりふり〉。マジかよ。ある意味〈起承転けつ〉ではあるが、もうめちゃくちゃだ。〈けつをふりふり〉を取り合わせることにも衝撃で、異常なバランス感覚のなせる技である。
ライトなSMが流行ってるってねえ 軽いやつ
ライトなSMが流行りだってねえ 痛くないやつ
ライトなSMが流行ってるってねえ 壊れないやつ
ライトなSMが流行りだってねえ あくまで軽いやつ
ライトなSMが流行ってるってねえ 跡にならないやつ
ライトなSMが流行りだってねえ それほど痛くないやつ
ライトなSMが流行ってるってねえ 後戻りできるやつ
ライトなSMが流行りだってねえ 軽いやつ
(“360°ノーマル”/『音楽ぎらい』収録)
まず何より効果的に働いているのは〈壊れないやつ〉〈後戻りできるやつ〉だろう。他が全てSMの内側で起こることを指しているのに、これらは外の世界の話だからだ。そしてさらっと凄いのは〈軽い〉〈痛い〉を何度か使うこと。これ本当にね、凄い。
羅列をするときに避けるべきは、さきにも言った通り、繰り返すことだ。よっぽど強いものでないと意味がないし、そこまで強いなら羅列するべきではない。とてもデリケートな手法だ。ただこれは感情の羅列でもあるので、繰り返しにも意味がある。〈軽いやつ〉で試してみたい、痛いのは嫌、〈あくまで軽いやつ〉〈それほど痛くないやつ〉でイイ思いをしたい! そんな逡巡である。
彩られた背中の上の
小さな夜のみずたまり
痩せてやつれたお腹の上の
小さな夜のみずたまり
暖められたスプーンの上の
小さな夜のみずたまり
(“夜のみずたまり”/『代理母』収録)
美しい羅列といったらまさしくこれだ。水はそのまま器の形を示すのだから、修飾によって〈夜のみずたまり〉の形が変容していくさまが本当に本当に見事。無駄な言葉もなく、繰り返しもなく、まったく不自然でない。そうでないものが悪いわけではないが、俺は羅列を書くときはいつも〈夜のみずたまり〉のことを思い出す。
さて『代理母』『音楽ぎらい』の歌詞について語る(マジで)長い旅路も、ここらで一旦終わらせましょう。あとちょっとで〆切だからです。最初は、面影ラッキーホールだいすこ!と、鼻息荒く書き始めた気がしますが、ま、作詞に興味ある人が楽しく読んでくれたらなと。もし何か感じ入ることがあれば音源で確認するとよいでしょう。10月7日にタワーレコードさんにて再発売されるアナログLPにて確認するならばもっとよいでしょう。
RELEASE INFORMATION
■面影ラッキーホール
タイトル:代理母 -1<初回生産限定盤/タワーレコード限定盤/クリアピンクヴァイナル>
リリース日:2026年10月7日(水)
品番:TJJA-10089
価格:5,720円(税込)
仕様:LP 33 1/3 r.p.m.
2016年リマスター音源使用/2026年最新カッティング/帯付き/クリアピンクヴァイナルカラー盤
解説:aCKy、sinner-yangによる対談/書き下ろしセルフライナーノーツ封入
制作:徳間ジャパンコミュニケーションズ
企画・販売:タワーレコード
※本作品の収録曲は収録可能時間の関係でオリジナルCD盤より1曲カットとなります。ジャケット、歌詞カードの表記とは異なっておりますのでご了承ください
TRACKLIST
Side A
1. 好きな男の名前腕にコンパスの針でかいた
2. あんなに反対してたお義父さんにビールつがれて
3. 俺のせいで甲子園に行けなかった
4. おんなの線路標(みちしるべ)
5. 必ず同じところで
Side B
1. 夜のみずたまり
2. 金曜日の天使
3. 今夜、巣鴨で
4. たまプラーザ海峡
5. ピロウトークタガログ語
6. 小さなママに
タイトル:音楽ぎらい -2<初回生産限定盤/タワーレコード限定盤/クリアピンクヴァイナル>
リリース日:2026年10月7日(水)
品番:TJJA-10090
価格:5,720(税込)
仕様:LP 33 1/3 r.p.m.
2016年リマスター音源使用/2026年最新カッティング/帯付き/クリアピンクヴァイナルカラー盤
解説:aCKy、sinner-yangによる対談/書き下ろしセルフライナーノーツ封入
制作:徳間ジャパンコミュニケーションズ
企画・販売:タワーレコード
※本作品の収録曲は収録可能時間の関係でオリジナルCD盤より2曲カットとなります。ジャケット、歌詞カードの表記とは異なっておりますのでご了承ください
TRACKLIST
Side A
1. 温度、人肌が欲しい
2. ひとり暮らしのホステスが初めて新聞をとった
3. 給料日さん
4. 100万人のポルノスター
Side B
1. おらんだ花嫁
2. 東京(じゃ)ナイトクラブ(は)
3. 54日間、待ちぼうけ
4. 360°ノーマル
■小林私
配信EP『遠景に覗う』

リリース日:2026年9月16日(水)
予約リンク:https://kobawatashi.lnk.to/ENKEIPR
TRACKLIST
1. さしいろ - Arrange Ver.
2. のど飴- Arrange Ver.
3. Mold - Arrange Ver.
4. 内窓 - Arrange Ver.
5. 金平糖 - Arrange Ver.
配信EP『胸中を浚う』

リリース日:2026年9月16日(水)
予約リンク:https://kobawatashi.lnk.to/KYOUCHUPR
TRACKLIST
1. GG NOOB REPORT U - Arrange Ver.
2. 目下 - Arrange Ver.
3. 人形の街- Arrange Ver.
4. 幻- Arrange Ver.
5. 瞳<type.5> - Arrange Ver.
リリース日:2026年3月13日(金)
TRACKLIST
1. 加速
2. 夢.jpeg selfcover
3. 幻
4. 金平糖
5. 暮らしの用例
6. 落日
7. 空に標結う
8. 可視光線 selfcover
9. 杮落し
10. 合鍵
11. 冷たい酸素
12. さしいろ
13. 秋晴れ
14.人形の街
15. のど飴
16. GG NOOB REPORT U
LIVE INFORMATION
■O.L.H.(Only Love Hurts a.k.a. 面影ラッキーホール)
ワンマンライブ『実録外伝 宇田川電撃作戦』
2026年11月7日(土)と右京・渋谷クラブクアトロ
開場/開演:16:00/17:00
チケット:前売7,000円/当日7,500円(税込/整理番号付/ドリンク代別)
学割(前売):5,000円(税込/整理番号付/ドリンク代別) ※当日入場口にて学生証をご提示ください
詳細ページ:https://o-l-h.jp/news/20260715/
※今回は『代理母』『音楽ぎらい』中心のセットリストを予定
■小林私
小林私単独公演『飛ぶための荷物』
2026年10月25日(日)大阪・Music Club JANUS
開場/開演:17:30/18:00
席種:全自由(整理番号付き)
問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(12:00~17:00 土日祝休業)
2026年11月8日(日)東京・I’M A SHOW
開場/開演:17:30/18:00
席種:全席指定
問い合わせ先:サンライズプロモーション 0570-00-3337(平⽇12:00〜15:00 ⼟⽇祝休業)
チケット料金:5,000円(税込) ※別途1ドリンク代
プレリクエスト2次先行受付:https://l-tike.com/kobayashiwatashi/
受付期間:〜2026年9月13日(日)23:59
PROFILE: 小林私
1999年1月18日生まれ、東京都あきる野市出身のシンガーソングライター。多摩美術大学在学時に本格的に音楽活動を始め、自室での弾き語り動画をきっかけに注目を集める。YouTubeでのユニークな雑談配信も相まって人気を博し、現在チャンネル登録者は16万人を超える。2023年、キングレコードのHEROIC LINEからメジャーデビュー。音楽のみならず、執筆・描画など多彩な才能を生かして活躍の場を広げている。
公式サイト:https://kobayashiwatashi.com/
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