宙キハラ(HIROMU KIHARA)が2025年1月に初のソロアルバム『GYRO, What’s The Frequency?』をリリースした。シネマやタイツといったバンドで活動した東京インディーロックシーンのベテラン一色進が率いるジャック達をはじめ、面影ラッキーホール(現Only Love Hurts)、極楽トレイン、大なり><小なりなど様々なバンドでギターを弾いてきたキハラが、自身のギター人生や音楽愛を音盤に落とし込んだかのような渾身、入魂の一作だ。曲数も16曲、収録時間も74分とCD目一杯に詰め込まれており、パッケージデザインもこだわり抜かれている。歌とギター、プロデュースに録音まで自ら手掛けた大作について、ライター村尾泰郎がじっくりと話を聞いた。 *Mikiki編集部

宙キハラ 『GYRO, What’s The Frequency?』 GO→ST(2025)

 

ジャック達を脱退、不退転の覚悟でソロアルバム制作へ

――これまで様々なバンドで活動されてきたキハラさんですが、『GYRO, What’s The Frequency?』は初めてのソロアルバムです。以前から構想はあったのでしょうか。

「これまでジャック達をいちばん長くやってきたんですけど、コロナ禍でしばらく活動できなくなっていたんです。2022年に入って久しぶりにワンマンのライブをやることになったので、その流れで〈新作を作りませんか?〉ってバンドに提案したんです。それで今回は、一色さんがアルバムの半分の曲を書いて、残りは他のメンバーで書く、という目標で、2023年の3月までに曲を出し合うことになりました。ところが3月になっても全然曲が集まる気配がなくて」

――キハラさん以外のメンバーの動きがない?

「というよりも、〈どうなってるの?〉って誰かが言ってもいいと思うんですけどそれもない。俺がいちばん年下だから、これまでそういう役割をしてきたのですが、今回はもういいやと思って。

そのまま夏くらいになって、一色さんから〈しばらく時間が空いたからライブをやろう〉という連絡があったんです。それだと今までと同じことの繰り返しじゃないですか。メンバーの夏秋(文尚)さんがムーンライダーズで忙しくなったりとか(現在、ムーンライダーズのドラマーとしても活動中)、そのほかにもいろんな事情があったんですけど、バンド内に前に進もうとする意思が全然ないことに頭にきてしまって(笑)。それでジャック達の新作用に作った“WILD HORSES”という仮タイトルの曲のデモ音源をバンドのグループLINEに送ってバンドをやめたんです」

――えっ!?  やめたんですか。

「やめました。曲に〈お別れの曲ができました〉というメモをつけて送り、グループLINEを脱退してそれっきり連絡をとっていません。日記を見返すと2023年9月13日のことだったようです。ちなみにこの曲は“誰も知らない”というタイトルになって今作に収録されています。

正直なところバンドはやめたくはなかったんです。俺は新潟出身で東京に流れ着いたんですけど、東京での音楽生活のほとんどはジャック達でした。20年以上やってきたから絶対バンドはやめない!と思っていたんですけど、前に進むつもりのないバンドにこれ以上いても仕方ない。こっちも50歳を過ぎてしまったし、健康不安もある、ましてや周りの訃報の頻度もだんだん増えてきて、もう時間はないぞ、と。ただ曲になりそうなネタのストックだけはかなり溜まっていました」

――大きな決断を下したわけですね。

「それで一人になってどうしよう?と思った時に機材を見直して、自分で曲を制作できる環境を整えようと思ったんです。昔からカセットMTR(マルチトラックレコーダー)でトラックを分けて曲を作ることはしていたんですけど、コンピュータには苦手意識があって。

とはいえ、そうも言ってはいられない状況でもあり、思い切って2013年に購入したまま放置していたPro Tools(音楽制作のためのコンピュータソフトウェア)に改めて向き合ってみたら意外と簡単にできたんです。それでストックしていたネタを曲にまとめるためにドラムとベースを打ち込んでギターと仮メロを入れ始めたら、デモが20曲くらいできたんです。それが2023年の10月くらいでした」