プログレの歴史に二人の六弦奏者あり――ギターの名手が大切に音を重ねたコラボ盤が完成! 〈感動〉と〈快楽〉が寄せては返す『The Roaring Waves』に映る旅路とは?
〈夢の共演〉という言葉がこれほどしっくりくる組み合わせもあるまい。元ジェネシスのスティーヴ・ハケットとマリリオンのスティーヴ・ロザリーという、プログレッシヴ・ロック界のレジェンダリー・ギタリスト二人による共演盤『The Roaring Waves』のことである。進取の精神に富み、実験をためらわず、新しい表現の模索に余念のない本作の姿勢こそ、〈プログレッシヴ〉というに相応しい。そう、プログレとは様式ではない、進化をめざす精神のことなのだ。
まず、主役二人の歩みを簡単に押さえておこう。スティーヴ・ハケットは、71~77年に在籍したプログレ・バンドとしてのジェネシスの黄金時代を支えた人物。メンバーのピーター・ガブリエルやフィル・コリンズらと共に多くの名作を生み出し、そのプレイはバンドの世界観を決定づけた。のちにエディ・ヴァン・ヘイレンが広めたタッピング奏法の先駆者でもあり、クイーンのブライアン・メイもハケットに影響を受けている。
少年期にそんなハケットのファンだったと公言しているのが、スティーヴ・ロザリーだ。80年代に〈ネオ・プログレ〉の隆盛を牽引したマリリオンのギタリストである。プログレ界屈指のメロディー派ギタリストとして知られ、ハケット同様、印象的で鮮烈なフレーズを量産してきた。
ハケットとロザリーは80年代から交流があったが、2010年代になってようやくお互いのソロ・アルバムに参加し合う仲となった。以前から尊敬し合うギタリストだった二人にとっては、積年の願望が実現したのである。ロザリーは〈ジェネシスに出会い、ギターを始めたばかりの15歳の自分に、いつかこの伝説のギタリストと親しい友人になる、といっても信じなかっただろう〉と発言している。そうした共同作業を重ねるなか、生まれたのが本作『The Roaring Waves』だ。多忙な二人ゆえに制作は長期間にわたり、構想から11年、そして制作に約8年の時間をかけて、ようやく完成させたという。また、本作ではラネストラーネというイタリアン・ロック・バンドのリッカルド・ロマーノがキーボードを弾き、エンジニアも務め、作品全体の構成/構築に深く関わった。彼なくして本作は成り立たなかっただろう、いわば影の主役である。続いて、そんなアルバムの聴きどころを曲単位でピックアップしてみよう。
スタジオでのジャム・セッションから生まれたというオープナーの“The Storm”は、このアルバム全体に横溢する〈泣き〉のメロディーが爆発するエモーショナルなナンバー。二人の激情的なギター・プレイが冴える。“Red Dragon”はインド音楽風のエキゾティックな旋律が特徴。ヴァイオリンやシンセサイザーに近い、震えるようなギターのサステイン(持続音)が活きている。そして、表題曲の“The Roaring Waves”はアコースティック・ギターの名手でもあるハケットの弾く繊細で優美なイントロが印象的。さらに“K-129”は、〈催眠的でサイケデリックな音楽を作りたい〉というロザリーの狙い通りの曲で、彼の弾くアナログ・シンセのループが核となっている。クローザーの“Pacific Coast Highway”では、ハケットが得意のブルースハープを披露し、ロザリーはベースを演奏。プログレっぽさよりもブルージーなムードが先立つ曲になった。
通して聴いてわかることは、テクニックをひけらかすようなプレイが皆無であること。卓越したテクニックを持つ二人のことだから意外に思われるかもしれないが、速弾きや超絶技巧よりも音楽としての完成度や革新性を意識してのことなのだろう。二人のギターは繊細で、あくまでも楽曲に貢献するものとして鳴らされている。
ところで、80~90年代にテクノやハウスが登場したとき、これからは〈音楽の感動〉より〈音響の快楽〉だ、と喧伝されたことがあった。その言葉に沿っていうと、本作では、クラシックの要素も持ち込まれたドラマティックな音楽の感動と、さまざまなエフェクターを駆使したギター・プレイによる音響の快楽が共存している。冒頭で述べたように、様式ではなく精神としてのプログレが息づいている、現在進行形のプログレッシヴ・ロックなのである。
スティーヴ・ハケットの作品と参加作を一部紹介。
左から、ジャベとの2025年のコラボ作『Freya -Arctic Jam』(Esoteric)、2024年作『The Circus And The Nightwhale』、2019年作『At The Edge Of Light』(共にInside Out)、ジェネシスの73年作『Selling England By The Pound』(Charisma)
スティーヴ・ロザリーの作品と参加作を一部紹介。
左から、2015年作『The Ghosts Of Pripyat』(Century Media)、マリリオンの2022年作『An Hour Before Its Dark』(EarMusic)、マリリオンの85年作『Misplaced Childhood』(EMI)、ビオスコープの2025年作『Gento』(EarMusic)
