EPOのベスト盤に聴く、都会的でカラフルな日本語ポップスの源流

 優れたポップセンスと旺盛な好奇心を備えたシンガー・ソングライター。EPOという音楽家を端的に言い表すなら、そんな言葉が似合うだろう。カジュアルなチャーミングさでカラフルに彩られたメロディー、都会的な味付けが施されたサウンドから立ち上がる、キラキラとした土曜の夜を思わせる躍動感。結果的にそれらは現在〈シティ・ポップ〉と呼ばれるようになったわけだが、彼女の魅力はそうしたカテゴリーのなかだけでは到底語り尽くせない。世界観を拡張していくことを恐れず、さまざまな音楽のエッセンスをみずからのポップスとして咀嚼し、軽やかに血肉化させてしまう。その音楽的探求心と柔軟性こそEPOの大きな魅力だ。

 しかも素晴らしいのはソウルであれ、テクノ・ポップであれ、オリエンタルな旋律であれ、彼女のフィルターを通過した瞬間、決して借りものに聴こえなくなること。さまざまな音楽を取り込みながらどれにも染まり切らず、最後にはEPOの歌として着地させる。そんな稀有なポップスの翻訳力を持ったミュージシャンは、日本の音楽界にそう何人もいるものではない。そして、その音楽性を受け継ぐ後輩たちも少なくなく、例えば土岐麻子のようなシンガーが全力で表現している、都会的で色鮮やか、そしてどこかハッピーな音楽世界。その源流のひとつを辿っていけば、間違いなくEPOの歌に行き着くはずだ。

 2025年にデビュー45周年を迎えたEPOは、いまもなおその探求心を失っていない。2025年のオリジナル・アルバム『EPOFUL』では新しいスタイルを取り込みながら、より多様な形で開花した音世界を提示。〈tiny desk concerts JAPAN〉への出演などを通して、〈シティ・ポップ〉を新たに発見する現代のリスナーにも魅力を届けている。

 そんな絶好のタイミングで登場するのが、EPOの黄金期と呼んでも差し支えない80年代前半を総括するベスト盤『THE RCA YEARS (1980-1984) #CityPopEssentials』だ。

EPO 『THE RCA YEARS (1980-1984) #CityPopEssentials』 Sony Music Direct(2026)

 デビューからRCA在籍期を凝縮した2枚組には、竹内まりやのディレクターでもあった宮田茂樹の下、20代前半の才気を音楽作りへと注ぎ込んでいく彼女のしなやかな冒険心が横溢している。山下達郎に嘆願してカヴァーの許諾を得たシュガー・ベイブの“DOWN TOWN”。「オレたちひょうきん族」のエンディングにも使用された、その80年のデビュー・シングルをはじめ、竹内まりや“戻っておいで・私の時間”と同じ系譜にある〈サバンナ・バンド歌謡〉の名品“土曜の夜はパラダイス”(82年)など、カレッジ・ポップス的な軽やかさと都会的な洗練が絶妙に溶け合っている。また、資生堂化粧品のCMソングとしてヒットした“う、ふ、ふ、ふ、”(83年)のキャッチー極まりないメロディー作りもEPOの真骨頂。山下達郎がアレンジを手掛けた“GOODIES”(80年)、 レイ・パーカーJr.がマキシン・ナイチンゲールに提供した曲のカヴァー“Girl in me”(82年)などにはソウルへの憧憬も滲む。

 さらに初回生産限定盤として、全75曲4枚組の『THE RCA & MIDI YEARS (1980-1990) #CityPopEssentials』も登場。こちらはMIDI時代まで収録し、より幅広い音楽性にフォーカスした内容だ。なお、通常盤のみの収録曲が2曲あり、Disc-1以外の内容は仕様ごとに異なっていることを特筆しておきたい。

EPO 『THE RCA & MIDI YEARS (1980-1990) #CityPopEssentials』 Sony Music Direct(2026)

 MIDI期になると、色が濃くなったというか、筆が太くなったというか、才気とは違う貫禄が漂いはじめる。60年代の和製ポップスを80年代的なサウンドへ巧みに移植したコカ・コーラCMソング“太陽にPUMP! PUMP!”(86年)、村松邦男のカヴァー・ヴァージョン“ジェラシー”でも知られる“無言のジェラシー”(83年)、お得意のオリエンタル趣味が花開く“上海エトランゼ”(85年)、めっぽうキュートな着せ替え人形キャラのCMソング“すてきなジェニー”(86年)まで、実に多彩。目が眩みそうになるほど色とりどりなのに、最終的に耳に残るのは、伸びやかでしなやかなEPOのヴォーカル。広がりがあって、どこまでも健康的。そのビタミン濃度の高い歌声こそ、彼女の音楽がエヴァーグリーンな輝きを放ち続ける理由なのだろう。このたび大量のEPO光線を浴びて改めてそう思った。

 言うなれば、実りの季節のEPOまつり。となれば次は、ブラジルなど幅広くさまざまな音楽に深く傾倒していった90年代の作品に耳を向けたい。EPOのその先はまだまだ広くて豊かなので。 *桑原シロー

 

それぞれの色で咲く、すてきな音楽――EPOを取り巻く最近のリリースを紹介!

EPO 『EPOFUL』 eponica(2025)

デビュー45周年記念の最新作は、“う、ふ、ふ、ふ、”、土岐麻子に提供した“Gift~あなたはマドンナ~”のセルフ・カヴァーを含む12曲を収録。佐橋佳幸ら旧知の仲間を招きつつ、リヴァイヴァルとは一味違う現在進行形のEPOのポップスを鮮やかに差し出す。

 

EPO 『AQUANOME LIVE at Valley of GANGALA in Okinawa』 eponica(2017)

2017年に沖縄の鍾乳洞で行われたライヴを収めたCD+DVDの2枚組。2009年作『AQUA NOME』の楽曲を中心に、さまざまな地域の民族音楽を重ね、生命力に溢れた歌とリズムを紡いでいく本作には、90年代以降のEPOの歩みが凝縮されているのでは。

 

城戸夕果 『Brisa』 78(2025)

ブラジル音楽を探求してきたフルート奏者による26年ぶりのリーダー作にEPOも参加。Choro Clubとの出会いを機に中南米志向を深めてきた彼女が、ジョビンの名曲“Anos Dourados”で透明感に溢れたスキャットを披露し、極上のチルなムードをもたらしている。

 

芳野藤丸 『YOSHINO FUJIMAL』 MOON/ワーナー(1982)

EPOが2曲にコーラスで参加した本作もSACDでリイシューされたばかり。SHŌGUNのリーダー兼ギタリストの初ソロ作で、洒脱なダンディズムを醸すサウンドが心地良い。EPOにとっては“う、ふ、ふ、ふ、”前年、ブレイク直前の仕事として押さえておきたい。

 

GOOD BYE APRIL 『HOW UNIQUE!』 PANAM(2026)

現在、結成15周年を迎えている4人組は、EPOのバック・メンバーをたびたび務めており、話題を集めた今年5月放送の〈tiny desk〉でも演奏。同プログラムでも曲目に組み込まれたブリージンなコーラスが魅力の“リ・メイク”は、この最新作に収録されている。 *田中亮太