(左から)谷口雄、長門芳郎、村松邦男、北爪啓之

タワーレコード渋谷店7Fで営業しているショップインショップ、パイドパイパーハウスの店主にして、日本のロック/ポップス史における〈最重要裏方〉と呼ぶべき存在の長門芳郎。今回は、かつて長門がマネージャーを務めていたシュガー・ベイブの元メンバーで、ギタリスト/作編曲家として活躍している村松邦男をゲストに招いて行われた、パイド店頭でのトークショー〈PIED PIPER GRAFFITI〉の模様(2024年6月28日)をテキストとして再構成。

パイドパイパーハウスの歴史は2016年に発行された長門の著書「PIED PIPER DAYS パイドパイパー・デイズ 私的音楽回想録 1972-1989」に詳しいが、〈PIED PIPER GRAFFITI〉はそこで深掘り出来なかったり漏れてしまったエピソード、あるいは刊行以降の物語などを紡いでいく企画である。

今回のトークではシュガー・ベイブの時代から大滝詠一との仕事、そしてイベント直前(2024年6月26日)にCDで再発された村松のソロアルバム3タイトルにまつわる話など、数々の思い出を振り返ってもらった。気心の知れた2人ゆえ、ときに脱線したり時系列が飛びながらも当事者ならではの細かなエピソードがこぼれ出るトークは、まさに〈グラフィティ=落書き〉的な楽しさに溢れていた。なお、聞き手として長門とも交流の深いミュージシャンの谷口雄、進行役として筆者(北爪啓之)も参加している。


 

村松邦男、山下達郎、大貫妙子らが集った3畳一間

長門芳郎「今日のイベントは〈PIED PIPER GRAFFITI〉の第1回目ということで、村松くんとの出会いやシュガー・ベイブ時代の話などが出来ればなと」

村松邦男「沼袋の3畳一間のこととか?」

長門「それ1972年頃の僕の家ね(笑)。3畳一間といっても一軒家だからね」

村松「小さい一軒家が6棟くらい固まってコの字型に並んでてね。玄関を開けるとちゃんと3畳の部屋があって。キッチンというか流しは外にあったし、トイレは共同だった」

長門「押入れもなかったからね。でも山下(達郎)くん、ター坊(大貫妙子)とかみんな遊びに来たんだよ」

村松「3、4人で行くと部屋に入りきらないんだよね」

長門「外で待っていてもらった(笑)。あそこは住所もなくて手紙とかは大家さんのところに届いたんだよ。ようは戦後のバラックの残りみたいなところでした」

北爪啓之「その頃にはもう四谷のロック喫茶、ディスク・チャートで働いてたんですか?」

長門「そうだね。ディスク・チャートは1972年10月にオープンしたんだけど、僕はほぼ最初からいたから。中学の同級生だった小宮やすゆうと一緒に、ラヴィン・スプーンフルとかヤングブラッズとか好きなレコードをかけてた」

谷口雄「いい職場ですねえ」

 

パイドでヒットした『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』再発盤

長門「1972年といえば、山下くんや並木進さん、武川(紳一)くん、鰐川(己久男)くんたちでその年に自主制作した『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』のアナログがリイシューされたよね」

山下達郎 『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』 Wild Honey(2024)

村松「あれは一度だけパイドで再発したよね?」

長門「1985年かな。パイドで何枚作ったと思う?」

谷口「うーん、1,000枚くらい?」

長門「5,000枚」

谷口「えーっ、そんなに!?」

村松「でも全部売れたんでしょ?」

長門「売れたんだよ。まぁオリジナルは100枚しかないからね。メンバーが手売りしたり、友だちにプレゼントしたり」

村松「金払って買ったって人を聞いたことないもん(笑)」

長門「ディスク・チャートでも売ってたんだよ。5枚くらい預かって1,500円で棚に出して。後で聞いたんだけど音楽ライターの田家秀樹さんが買ってくれたんだよね」