ロマンティックな甘いメロディが誘う音旅物語

 〈静かに囁く粋な男〉ナポリ出身のジョー・バルビエリ。彼のスタイルの特徴を表現するなら、イタリアのブルーノ・マルティーノらに影響を受けたブラジル音楽と、ファドタンゴやラテン圏音楽のミクスチャーといったところだ。ロマンティックなフィーリングがしっくりくる〈甘美系シンガー・ソングライター〉で、その甘さはブラジルのカエターノ・ヴェローゾジョアン・ジルベルトセルソ・フォンセカ、フランスのアンリ・サルヴァドール、ジャズ界ではチェット・ベイカーを思い起こさせる。

 マイルドに仕立てられた南イタリアらしい甘いメロディと、ラテン圏の切ないサウンド。目を閉じると音像が浮かんでくる、まるで感傷と郷愁の〈聴くイタリアン・シネマ〉のようだ。回を重ねるたびに洗練される壮大な世界観で毎回楽しませてくれる。

JOE BARBIERI アパートメントの宇宙飛行士 コアポート(2015)

 さて、2015年に封切られる本作『アパートメントの宇宙飛行士』は“旅への憧憬”がテーマ。イマジネーションは狭い部屋を飛び出し、イタリア、リオ、パリ、コペンハーゲン、マドリッド…豊かな広大な世界を旅する音物語。春の訪れを感じさせる柔らかなサウンドが雪を溶かし、光に反射し煌めくようなストリングスも清々しい。タンゴやフラメンコサンバショーロも取り入れた静寂の中から沸き起こるパッションを、静かに甘く囁くヴォイスが挽きたて、美しい情景と共に芳醇に香ってくる…まるで紀行ムービーを観ているようなクワイエット・エレガンスの世界。

【参考動画】ジョー・バルビエリの2013年作『Chet Lives!』告知映像

 

 また、甘美でロマンティックな曲のみならず、旅の出発を祝うかの如くウキウキするようなアッパーな曲も随所に散りばめられているところも聴きどころ。ホーン隊がバックアップするフラメンコmeetsサンバ・チューンや、アンドレ・メマーリ作品の参加で評価著しい現代バンドリン奏者の第一人者アミルトン・ヂ・オランダの超絶プレイも堪能できるショーロもハート・ウォーミー。暖かくなる春先の旅にピッタリの快適音楽!