写真提供/COTTON CLUB 撮影/米田泰久

 

 繊細華麗にして正確無比。色彩感ある豊かなニュアンスを醸しながら、独自のダイナミックな手法で一気に最高潮まで達し、また再び驚くほどの美しい曲線を描いてテーマへ回帰してくる。もちろんそれが優しいバラードで行なわれることもあるが、奇想天外なスピード感の変拍子/ポリリズム(あるいはもはやその表現では言い表わせない新種のリズム)のもとで突きつけられると、我々はただ茫然とさせられるのみ。そこで語られるストーリーに、しかし決して不自然なプロットが加えられることはない。この神の指が紡ぐ卓越したラインに、信じられぬほど耽美なハーモニーも添えられて、新しい音世界が開扉させられることになる。そうした今のジャズを、シーンの最右翼にいて体現させてくれるのがアーロン・ゴールドバーグだ。

 「ジャンルを問わず先代の偉大なるピアニストたちをできるだけ多く愛し、可能な限りその演奏を勉強してきた。そして彼ら一人ひとりを偉大にしている理由は何なのか、それぞれ答えの究明に明け暮れてきた結果が今の僕ってわけさ。僕らはジャズという言語を話す人種であり、それを流暢とするにはやはり文法も語彙力もアイディアも必要になってくる。とりわけアイディアを湧出させるためには、リズムの修得が重大だと気がついたんだ。リズム的な語彙をいかに広げるかは、ハーモニーやメロディに意識が傾きがちなピアニストの一人として、ひとつの発見と言ってもよかった」

AARON GOLDBERG The Now Sunnyside/King International(2014)

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 ジョシュア・レッドマンマーク・ターナーウィントン・マルサリスカート・ローゼンウィンケル渡辺貞夫、また自身が率いる複数のオリジナル・トリオでの活動も含め、もはやこの世界で欠かせない存在となった。昨年末に出した最新作『ザ・ナウ』は、エリック・ハーランドのリズミックなシカケが印象に残る。1999年の初リーダー作『ターニング・ポイント』以来、トリオ・ミュージックの開示では必ずハーランドがドラムの席に座ってきた。なのに一切狎れ合いがなく、どのセッションでも高い緊張が保たれている。

  「彼とのミーティングでは何か新しいものをという意気込みはなく、自然と、ごくオーガニックな構えの中から必要なリズムが立ち上がってくるんだ。そしてそれが次への新しい発想を生み、新しいヴォキャブラリーが付され、そして演奏の洗練へとつながっていく」

【参考動画】アーロン・ゴールドバーグの2014年作『The Now』でのトリオによるパフォーマンス

 

 瞬間、瞬間にあるモーメントを掴むためにも、リズムへのそうした探求は大役を担ってきた。ことに新譜では、宿願であったブラジルやアルゼンチンやハイチのリズム/メロディと自身が培ってきたNY的気風/即興性の融合を試みている。まさに今のジャズが示すひとつの理想型を見るような、極上のアルバムである。