巨匠チコ・ハミルトン(ds)が、最後に愛したフルーティストのデビュー作
上原ひろみ(p)を筆頭に、多彩な日本人アーティストが活躍するニューヨークのジャズ・シーンに、また新たな才能がアルバム・デビューを飾った。フルーティストの佐伯麻由だ。エリザベト音大を卒業後、日本での活動を経て、10年前に単身ニューヨークへやって来た。2010年に大ヴェテラン・ドラマーのチコ・ハミルトンに出逢い、そのアンサンブル〈ユーフォニア〉に抜擢され、逝去する2013年まで行動を共にし3枚のアルバムに参加している。フルートの音色を愛するハミルトンのグループからは、エリック・ドルフィー(as,fl,b-cl)や、チャールス・ロイド(ts,fl)が巣立った。佐伯も、そのフルーティスト・リストに名を連ねる実力を誇っている。毎週行われた〈ユーフォニア〉のリハーサルから、佐伯は多くのことを学んだという。
その成果がデビュー・アルバム『Hope』に、結実した。レコーディングに起用したのは、2011年のレギュラー・トリオ結成時からのメンバーの、アーロン・ゴールドバーグ(p)と、ジョー・サンダース(b)、ローカル・ギグを共にしたノリ・オチアイ(p)、そしてジョン・デイヴィス(ds)が、リズムにダイナミクスを加える。オリジナルとカヴァーが3曲ずつの構成だが、ハミルトン譲りのチェンバー・ミュージック的なアプローチが統一感をもたらす。タイトル曲の《Hope》で、佐伯は高いソング・ライティング能力を発揮し、ゴールドバーグが美しいソロで応え、佐伯のドラマティックなインプロヴィゼーションを導く。オチアイは随所で絶妙なコンピングを聴かせ、エンディングの《Do You Know...?》では、サンダースとデイヴィスが、美しいスペースをクリエイトしている。ピアゾラの 《リベル・タンゴ》では、2人は一変して激しく交錯するグルーヴを生み、佐伯をインスパイアする。イントロで篠笛がフィーチャーされる《蘇州夜曲》も本作の聴きどころだ。チコ・ハミルトンの魂は、佐伯のプレイの中で生きている。