「私のなかに溜まっていたパワーをやっと噴火させられたかなって」。日本の民謡をトランシーかつ派手なエレクトロ・サウンドで料理した野心的なアルバム『KODAMA』をそう語るマイア・バルー。確かにここには、力強く地面を踏みしめながら旅を続ける彼女のこれまでになく威勢のいい足音が高らかに鳴り響いている。3年前からパリに拠点を移した彼女の5年ぶりの新作。3.11を契機に心がゼロ状態になってしまい、自分は何故歌いたいのか?という命題に向かわざるを得なくなり、選択したのが東北の民謡を歌うことだった。

 「最初はいろいろ聴きながら、単純に面白かったから歌ったりしてたんです。でも、アルバム作りの過程で自分の音楽といい具合に組み合わせることができて、より楽しくなって。私は頭で音楽を作らないからつねに感覚的なんだけど、民謡が放つ生命力の強さ、曲そのものから湧き出るエネルギーにハマった。で、私ならば土着的な歌である民謡をいまの時代に生きる人のもとに届けることができるとミッションを感じちゃって。何百年もかけて形を変えながら伝承されてきた歌だからシンプルな力強さがある。歌詞はもちろん大事、ただもっと違うところを感じてほしいというか、民謡が持つ大きなものを捉えてほしいんです」

MAIA BAROUH 『KODAMA』 General Pattern/コアポート(2014)

 東北民謡という根の深い木から大きなエネルギーを充填した彼女の歌はいちだんと野性味を感じさせ、自由奔放極まりない。Shing02とのコラボ曲“宴”のベースリフなどを再利用したハイパー民謡“JONGARA”など、モーレツなヤンチャネスをアピールする楽曲揃いなのも頼もしい限り。こんな刺激的なアルバムを彼女と試行錯誤を繰り返しながら制作したのは、フランスの名プロデューサー、マルタン・メソニエだ。

 「マルタンはインテリだけど原始人みたいな人で、話合いをしながらどうとかならなかったけど(笑)、音楽的には気が合った。確固たる音楽的ヴィジョンがあり、私のデモも結構削られたけど、おかげでオリジナル曲と民謡との統一感が生まれて。音を作りつつ次第に出来上がっていく世界観を大事にしてくれたんです」

 力強いリズムを持ったアッパー・チューンに混じって、クールで一種不気味な雰囲気を纏った楽曲が随所に顔を出すことで、全体的に不可思議な色合いが生み出されているところも本作の特長。曲が映し出していくミステリアスで未知なる風景を前にして、心地良い迷子感覚が味わえるのが何よりも楽しい。

 「もともとヤンチャでダークな人間ですから(笑)。聴いてくれた人が、どこかの国にこんなフォルクローレがあるんだろうな、とか思ってくれたら最高。でも理想にたどり着くのは、もうちょい先かな(笑)」

 


LIVE INFORMATION
MAIA BAROUH LIVE
2015年4月2日(木)東京・渋谷 WWW
開場/開演:18:30/19:30
出演:マイア・バルー(ヴォーカル/フルート)/ミン・ファン(キーボード)/アントニー・フレノー(ドラムス)/駒澤れお (パーカッション)/ミッシェル・ミチナ(コーラス)
https://www-shibuya.jp/