25年目の新たなスタート 人々にそっと寄り添うさりげない音楽
小原孝は、ジャンルを超えた自由で、優しいピアノの紡ぎ手として愛され続けている。リクエストに即興演奏で応えるNHK-FMの『弾き語りフォーユー』も放送17年の長寿番組になり、アルバム『アルハンブラの想い出』は、その番組から派生したシリーズの最新作で、いつものオープニングトークから始まる。
「番組へのリクエスト曲を中心とした編成ですが、今回は《壊れかけのRADIO》など90年代のヒット曲を意図的に多く選んでいます。17年も番組をやっていると、リクエストが重複しますが、お便りの内容が僕のインスピレーションになるので、弾くたびに演奏が変わります。リスナーと音楽のキャッチボールを出来るのが番組を続けるうえで喜びになっています」
リクエスト中心なので収録曲もクラシックから童謡、ミュージカル、映画音楽、ポップ、ロックと幅広い。そのなかで、ピアニストのソロ・アルバムなのにタイトルに選ばれたのが《アルハンブラの想い出》。なぜギター独奏曲を演奏し、タイトルにもしたのだろうか。
「僕の父がギタリストで、その演奏を聴いて僕は育った。デビュー25周年作品ということもあり、父との想い出に捧げたいと考えて、《アルハンブラの想い出》と《禁じられた遊び》を収録しました。アレンジをするにあたり、いろいろなアプローチが出来たと思うけれど、なるべくギターの音色に近づけようと考えて、素朴さを大切にした演奏になっています」
収録曲のなかにはユニークな楽曲《仔猫と子犬のワルツ》もある。彼が1994年に発表したヒット曲《ねこふんじゃったスペシャル》とショパンの《子犬のワルツ》をマッシュアップさせて、仔猫と子犬がケンカしている、という設定のもとで作られた独創的な曲だ。
「最初に《ねこふんじゃった》を弾いた時、プロのピアニストがやるものじゃないとバッシングされた(笑)。でも、今では94年当時子供だったリスナーから番組あてに、“親になり、ピアノを習う子供に聴かせています”なんて手紙が来たりする。音楽が次世代に受け継がれているうれしさもあるし、音楽の捉え方が時代によって変わるおもしろみを感じています」
アルバム発表後にコンサートを行う。新作からの楽曲に加えて、東日本大震災心の復興支援曲《逢えてよかったね》も客席全員参加の大合唱団で演奏される。
「頑張れを押しつけるのではなく、必要な時にいつでもコンタクトがとれて、手を差し伸べられる、という支援活動を続けたいと考えていて、音楽も同様に聴いてくれ、ではなく、ちょっとさびしい時、欲しくなった時に寄り添ってあげられる。そんな存在であり続けたくて、アルバムもそういう思いを込めて作りました」
LIVE INFORMATION
小原孝ピアノリサイタル~CDデビュー25周年記念演奏会~
○5/10(日) 15:00開演 会場:東京文化会館大ホール
スペシャルゲスト:押尾コータロー(g)曽我大介指揮・東京フィルハーモ ニー交響楽団