椎名基樹による回想録「オールナイトロング ―私にとっての電気グルーヴのオールナイトニッポンとその時代―」が、2026年2月18日に刊行された。本書は、1991年から1994年まで放送されたニッポン放送のラジオ番組「電気グルーヴのオールナイトニッポン」で起こった様々な出来事などが回顧されるほか、当時のサブカルチャーや著者の周辺で何が起こっていたのかを振り返っていく一冊だ。

石野卓球とピエール瀧による毒舌をたっぷり含んだ爆笑フリートークやコーナーが人気を集めた「電気グルーヴのオールナイトニッポン」。当時もう1人のメンバーだった砂原良徳はまれに姿を現したが、基本的には卓球と瀧の2人による進行で届けられ、レギュラー放送終了後も複数回の特番がオンエアされた。番組のなかで2人が放った唯一無二の〈笑いのツボ〉は数多くのお笑い芸人や文化人に大きな影響を与えたほか、卓球が〈今週のおすすめ曲〉を紹介するコーナーではニュー・オーダーやクラフトワーク、リエゾン・ダンジェルーズなど電気グルーヴのルーツとなったグループや、ほぶらきんや猛毒といった日本のインディーズバンドなどがピックアップされた。

なかでも、アンダーワールドの“Rez”やレネー・エ・ガストンの“Conte De Fees”など日本ではまだまだ認知度が低かった海外テクノの注目トラックがセレクトされたことは、日本のテクノシーンの発展において大きな役割を果たした。オンエア後、走ってレコ屋に行き放送内で取り上げられたアーティストのCDやアナログ盤を血眼になって探したという人も多いかと。
そんな「電気グルーヴのオールナイトニッポン」に、見習い放送作家として参加した椎名基樹。卓球と瀧とは地元静岡の先輩後輩という関係であり、電気の前身バンドである人生のメンバーだったこともあるため、番組では生放送中に都内某所から有楽町のニッポン放送まで走らされるコーナー〈深夜の使いっ走り〉に登場したり、椎名が高校時代にボーカルをやっていたバンド正露丸Xの(「静かにしろ、バカヤロー!」のシャウトから始まる)秘蔵音源が流されたりと、リスナーにはお馴染みのスタッフだった。
電気グルーヴとはそんな親密な間柄だったことから、書籍内に登場する人物や披露されるエピソードの数々は瞠目に値するものばかり。さらに、番組放送前の打ち合わせの様子や人気コーナーの魅力も詳細に語られていく。投稿はがきコーナー〈平成新造語〉〈ギブ&迷惑〉などが春風亭一之輔や宮藤官九郎に影響を与えたのではないかと考察する一方、前述した〈深夜の使いっ走り〉における様子のおかしい青年に襲われそうになったエピソードなど、常軌を逸した出来事(≒事件)の回顧も枚挙に暇がなく、ヘビーリスナーだった人は番組内で使用されていたアート・オブ・ノイズの“Robinson Crusoe”などが脳内に響き渡るのではないだろうか。そして、当時のリスナーでなくても「電気グルーヴのオールナイトニッポン」の奇怪さを理解してもらえるはずだ。
ちなみに、同書のなかでも触れられている新千歳空港で発生したリスナーとの〈長嶋茂雄事件〉や、生放送中に卓球と瀧が行なった賭けに敗北した瀧がテレビ東京の「スターボウリング」にゲスト出演した際に施した〈デーモン小暮メイク〉の映像は、大根仁が監督を務めたドキュメンタリー映画「DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~」や、“ドリルキング社歌2001”のミュージックビデオにそれぞれ映し出されているので、ぜひチェックを。

また、前述した〈今週のおすすめ曲〉の影響力の大きさについてもページ数を割いている。特に、ロッテルダム・ターミネーション・ソースの“Poing”(通称:バネ)をきっかけにしたロッテルダムテクノへの言及は示唆に富んでおり、あまりに過激な楽曲だったために「これは放送事故ではありません」と注釈が入れられたユーロマスターズの“Alles Naar De Klote”のオンエアは、深夜番組とはいえ相当にチャレンジングな試みだったことが伝わるはずだ。
さらに、番組が放送されていた期間に電気グルーヴが発表した名盤『VITAMIN』にまつわるエピソードも。レコード会社との衝突や発売日の延期、卓球の失踪など難産の末に完成した一枚だったが、来日中の808ステイトが作品を聴いてメンバーに送った勇気づける言葉の数々は〈胸熱〉というほかない。椎名が“Happy Birthday”の歌詞から読み取った、新しく生まれ変わったような卓球の姿やクラブ体験の瑞々しい感動への思いも興味深い限りだ。


ほかにも、番組外における著者と卓球&瀧との交流話や彼が考える電気グルーヴの活動におけるスタンスなどが語られていくが、終盤には友人たちとの死別についても赤裸々に言及。狂乱と快楽の日々の終焉は、映画「24アワー・パーティー・ピープル」にも通じる切なさがあって心に深く刺さる。
椎名基樹が間近で見ていた人生~電気グルーヴの歴史の一端を、当時流行していた文化や風俗のトピックを多分に交えながら語った「オールナイトロング ―私にとっての電気グルーヴのオールナイトニッポンとその時代―」。読み応え十分な一冊に仕上がっているので、ぜひ一読を。
BOOK INFORMATION

発売日:2026年2月18日(水)
ISBN:9784575320459
ページ数:496
判型:46
価格:2,750円(税込)
PROFILE: 椎名基樹
1968年、静岡県生まれ。ライター、構成作家。高校生の時、〈人生〉のメンバーとして活動。当時の芸名は〈ポートピア83才〉。上京後、見習い放送作家として「電気グルーヴのオールナイトニッポン」のスタッフに加わる。主な著作に「モテたくて・・・」(天久聖一との共著、光栄)、「ぼろぼろのダチョウ」(扶桑社)、「バカはサイレンで泣く」シリーズ(扶桑社)、「俺たちのプロレス変態座談会」(玉袋筋太郎、堀江ガンツとの共著、エンターブレイン)等。
PROFILE: 落合翔平
画家。埼玉県大宮生まれ。多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻を卒業。ダイナミックで予想不能な形状や立体感、力強い筆圧で描かれた線画が特徴。ファレル・ウィリアムス主催の〈JOOPITER〉にも作品を提供し、国際的な注目を集めている。


