〈R&B〉とクロスオーヴァーする形でインディー・シーンに巻き起こる新たな潮流――4ADの新鋭によるファースト・アルバムが到着
数年前から〈R&B〉とクロスオーヴァーする形でインディー・シーンに新たな潮流が巻き起こっているが、その勢いはいまも衰えることを知らない。ざっと見渡した限りでも、カニエ・ウェストの『Yeezus』に参加したアルカがプロデュースするFKAトゥイッグス、BBCの〈Sound Of 2014〉でも3位に選ばれたLAの歌姫=バンクス、サブトラクトとのコラボでお馴染みのサンファ、ディープかつソウルフルな歌声で注目を浴びるクワブスなど、有望な才能が次々に頭角を現している。そして、ロンドン出身/ウィーン在住のソロ・アーティスト、ソンもまたこの流れで脚光を浴びている新鋭の一人だ。
10代の頃はバンド活動に勤しんでいたソン。だが、「そのうちに自分の〈声〉を見つけ、自分の歩みたい道に向かって真っ直ぐ進まなきゃいけないって思うようになったんだ」という。また、以前はエレクトロニック・ミュージックにそれほどハマっていなかったが、「2年ほど前にアナログ・シンセとドラムマシーンを貸してもらえる機会に恵まれた」ことによって開眼。それから現在の音楽性に繋がるサウンドを生み出すようになる。
ファーストEP『The Wheel EP』のリリースは2年前——ということは、エレクトロニック・ミュージックのプロデュースに着手してすぐの話になる。にもかかわらず、稚拙さを感じさせないどころか、最初から完成度は非常に高かった。当然の如くインディー界隈の有名ブログではすぐさま話題を呼び、それが後押しとなったのか、名門4ADと契約。先述のバンクスやクワブスのプロデュース業なども挿みながら、このたび晴れてファースト・フル・アルバム『Tremors』が送り出される運びとなった。
このアルバムの根幹を成すのは、温かみのあるアナログ・シンセのサウンドと、曲によってはリフの代わりも果たす印象的なヴォーカルのカットアップ。どのトラックも緻密かつ複雑に作り込まれているが、決して難解な印象は与えない。むしろ聴き心地はとてもスッキリしている。おそらくそれは、音を詰め込みすぎず、空間を活かしたアレンジを意識していることが関係しているのだろう。
「そう、〈静けさ〉は僕にとって、とても重要な基盤なんだ。あえて静けさを採り入れることで、自分と自分の作り出すものの強さを試している。静けさを耐え抜くことができたら、それは良いものだという意味だからね」。
そしてもちろん忘れてはならないのが、打ちひしがれたようなソンのヴォーカルだ。影響を公言しているトム・ヨークにも似たその声で、彼は孤独や切なさを歌い上げる。
「どれもがあきらかに悲しげな曲っていうわけじゃないんだ。ただ悲しみっていうのは自分を自分自身と結び付けてくれる美しいものだから、その感情を探索するのは好きだよ」。
PROFILE/SOHN
ロンドン出身のシンガー・ソングライター。10代の頃にバンドをはじめ、やがて地元でギターやピアノを教えるようになる。2010年にオーストリアはウィーンに拠点を移し、本格的なソロ活動をスタート。2012年夏にSoundCloudで発表した楽曲がPitchforkなどで高評価され、11月に自主レーベルからファーストEP『The Wheel EP』をデジタル・リリース。ラナ・デル・レイらのリミックス仕事を経て、2013年に4ADと契約する。“Bloodflows”“Lessons”“Artifice”と3枚のシングルが立て続けにヒットを記録。バンクスやクワブスのプロデュースを手掛けて注目を浴びるなか、4月30日にファースト・フル・アルバム『Tremors』(4AD/HOSTESS)をリリースする。