〈サマソニ〉出演で日本でも一気に知名度を上げたインディーR&Bの申し子。いや、そんなタグ付けを躊躇してしまうほど、そのリリカルな歌声にはより大きなフィールドで人々の心を掴む何かがある。世界が注目するゴッデス誕生の瞬間に、あなたは何を思う?
インディーR&B──近年、恐らく何度も目にしてきたキーワードだろう。このトレンドの正確な定義付けを試みるよりも、サンファやFKAツイッグスからジェシー・ウェアまで特に英国を中心に台頭してくる新しいシンガー、そしてリル・シルヴァやトータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズ、シュローモなど新世代のトラックメイカーが作るサウンドを思い浮かべたほうがピンとくるかもしれない。ここで紹介するバンクスも、そうした潮流の真ん中にいる人物だ。
本名はジリアン・バンクス。LA出身の26歳。2013年初頭にSoundCloudへアップした音源が話題を呼び、この1年の間、さまざまな旬のクリエイターと組んで楽曲を公開しつつ、ハズレがないことで名高いBBCの〈Sound Of 2014〉で第3位に選ばれる。そのようにしてジワジワと注目度を高め、ついに初のフル・アルバム『Goddess』をリリースした。欧米ではVogueなどのファッション誌からもラヴコールを受け、すでに彼女の名は広く知れ渡りつつある。そんなバンクスが音楽を始めたきっかけは、フィオナ・アップルだそう。
「私が初めて曲を書いたとき、フィオナは大きなインスピレーションだったわ。彼女の音楽はありのままの自分を表現することを後押ししてくれたの」。
14歳の頃に作りはじめた楽曲は、当初ピアノと歌だけのシンプルなものだったという。そして録り溜めていた音源を、親友が音楽関係者に送ったことで、彼女は世に出るきっかけを掴む。やがてその音楽関係者がマネージャーとしていろいろなアーティストを引き合わせ、バンクスのサウンドは深化を遂げるのだ。
「このアルバムではただ単に私が好きなサウンドを表現した感じだわ。もちろん、いっしょに働いた人たちからの影響は自然と受けたと思う。本当に気に入った人たちとの仕事だったから」。
ソンやシュローモらが手掛けたダウナーなトーンのエレクトロニック・ナンバーにて最新型のインディーR&Bを提示しつつ、その一方、「彼なしでアルバムを作ることはできなかった」と話す名ソングライターのティム・アンダーソンが助力した“Change”や“Someone New”など、もともと彼女が志向していたと思われるオーソドックスなバラードも、本作では披露している。
歌詞からも読み取ることができるバンクスの表現の核は「〈怖いもの知らず〉で〈言い訳がましくない〉、そして〈ありのまま〉であること」だと本人はコメント。そうした音を表現することへの覚悟と、類い稀な存在感、確かな歌唱力に加え、今後も彼女がコラボレーターとの幸福な出会いをモノにしていければ、ある種のマンネリ感もあるメインストリームのR&Bシーンにまで大きな波を起こすような、エキサイティングな存在となっていくに違いない。ちなみに、「ミッシー・エリオットやファレル・ウィリアムズ、ブランディとも仕事をしたい」とも語ってくれた。