可愛くて、人懐っこくて、しかもマニアック!? 音と楽しげに戯れるバンドが描く、〈多様性〉の時代におけるセンティメンタリズムとは?

 藤岡みなみ&ザ・モローンズは、タレントとしても活躍中の藤岡みなみ(ヴォーカル/ギター)と、ジャズやブルースといったルーツ・ミュージックに至るまで、あらゆるライヴ/レコーディングのサポートで腕を振るってきたヒロヒロヤ(キーボード)、パワー・ポップ・バンドのオレンジズでも活動するネロ(ギター)によって2013年に結成。今春に発表した初作『はじき』では、ホームとしている中央線界隈のどこかモラトリアムな空気を音符の隙間から漂わせながら人懐っこいポップスを聴かせてくれた、さも楽しげなバンドである。

 「〈バンドって楽しいね!〉っていうのが僕らの合言葉で。受け手の方にはガール・ポップ感覚で楽しんでもらえてたりもするんですけど、〈平成のプロコル・ハルム〉って言われてもおかしくないようなマニアックなこともやってたりするんです」(ヒロヒロヤ)。

 「オシャレな感じの曲を作っても、どこか泥臭いところがあるんですよ、モローンズは」(藤岡)。

藤岡みなみ&ザ・モローンズ S.N.S Chuo Line(2015)

 そんな彼らの新作『S.N.S』には、リード曲のメロディアスなジャズ・ロック“ウインク・キラー”をはじめ、ネオ・ソウル風味のスロウ“それでそれで”、藤岡がラップも披露しているディスコ調の“ド忘れ in the night”など、前作よりもジャズやファンクの要素が色濃く映し出されている。前作から匂わせていた〈シティー・ポップ〉と呼ばれるトレンドとよりわかりやすく結びついた作品とも言えるが、彼らの曲からはサウンドのディテール以上に、言葉と演奏が豊かに絡み合った〈歌〉が伝わってくる。それこそSNSのなかではなく、実際に街を歩いたり友達としゃべったり、深い皮膚感覚を伴ったコミュニケーションのなかで得られるようなセンティメンタリズムを乗せて……。

 「ギターがもっと前に出てもいいような曲もあるんですけど、鍵盤が目立ったほうが個性的だし、音像的にも広がると思うんです。鍵盤で曲を作ってるっていうのは、このバンドの特徴に繋がってるかと思います」(ヒロヒロヤ)。

 「SNSのおかげで昔よりあきらかに思いを馳せる世界が広くなっていると思うんです。でも、無駄に広くなっていくばかりで実感が追いついていないのが2015年の実体かなって。そこで実感を得ていくにはどうしたらいいのかなあっていう〈S.O.S〉のメッセージも『S.N.S』にはあるんですよね。曲がいろんなジャンルを往ったり来たりしてるような多様性——〈diversity〉という意味でもSNSとリンクしていて、モローンズにはいろんな曲があるよって……そこもどんどん伝えていきたいです」(藤岡)。