Love City 2015
[ 特集 ]都市インディーの源流

音楽の聴かれ方、表現の仕方が大きく変化した90年代。その幸福な時代を起点に、多様化する〈街の音楽〉など現在の日本のインディー界隈の源流を紐解いてみよう

 シティー・ポップの再興に誘発されてなのか、その再興自体がこの動きの一端なのか――ここ数年のインディー・ポップ、特に東京周辺のアーティストで多く見られるようになってきているのが、ジャズやソウル、ファンク、R&Bといった〈ブラック・ミュージック〉、あるいはヒップホップをJ-Popとして鳴らそうという現象。そして、そのヒントとして頻繁に口に上るのが、〈90年代のJ-Pop〉というキーワードだ。

 90年代におけるJ-Popと〈ブラック・ミュージック〉との接近を考えるとき、トピックとして挙げられるのは、ピチカート・ファイヴの諸作や小沢健二『LIFE』(94年)を筆頭に、ソウルの持つ軽やかさや華やかさを体現した渋谷系や、その根本にあった60~70年代のロック/ポップの再評価。あるいは、そんな時流を追い風に実現したレア・グルーヴ作品のCD化や、フリー・ソウル的なDJ感覚。さらには、UAACOらのクラブ・ヒットに始まり、宇多田ヒカル『First Love』(99年)で一気にお茶の間でもブレイクしたR&Bポップなどさまざまあるが、新旧の音楽をフラットに自身の表現へと採り入れはじめた分岐点、それが90年代だったと言えるのではないか。

 そうした流れを踏まえたうえで、2000年代以降もフォークを出発点とするはっぴいえんどらに〈喫茶ロック〉という新たな視点がもたらされたり、A&M系のソフト・ロックとフュージョンを交配した都会的なAORを構築する職人肌が現れたり。または、山下達郎松任谷由実ら70~80sのニューミュージックを参照した(2000年代中期の)シティー・ポップの再編が起こったり、文脈は異なるがFRONTIER BACKYARDalaUNCHAINといった〈AIR JAM〉を通過して〈ブラック・ミュージック〉に到達したグルーヴ・ロック勢が台頭したり。つまり、冒頭で記したような現行のインディー・ポップと並べて聴くことのできる、ある種の都市感覚を持つ音楽は、90年代以降ずっと存在していたわけで……ここでは、そんな作品をまとめて紹介してみよう。 *bounce編集部

 


 

CITY GIRL
〈シティー感〉や〈ブラック・フィーリング〉を時流に合わせて体現する、個性的な女性。ヴィジュアル・イメージも引き受ける代表的な例なら、ピチカート・ファイヴの野宮真貴。あるいはtofubeatsら外部作品への客演でも存在感を示すBONNIE PINKなど、彼女たちはいつだって華やかで……。

 

五島良子 Froggie キューン(1995)

エンジェル・ヴォイスを響かせた電気グルーヴ“虹”と同年に発表されたフル作は、6曲のアレンジを担当したドン・グルーシンをはじめ、フュージョン界の凄腕プレイヤーたちがバックアップ。柔らかな空気を貫いたニューミュージック~AOR群のなかには、オリジナル・ラブ“接吻”のサウダージなカヴァーも。 *土田 

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一十三十一 CITY DIVE Billboard(2012)

 2002年にデビューし、70~80sシティー・ポップの復興に早くから取り組んできた歌姫が発表した5作目。クニモンド瀧口がプロデュースを手掛け、DORIANKashifらが参画というアーバンな布陣でもってこのジャンルに真正面から取り組み、エレクトロニックな音像でモダンなアップデートを成功させている。 *澤田

 

 

Shiggy Jr. LISTEN TO THE MUSIC mona(2014)

圧倒的にキャッチーなセンスでバズと称賛をモノにした4人組バンドによる2枚目のミニ・アルバム。前作でのソウルフルなサウンドはそのままに、煌びやかなハウスの光沢も取り込んだダンサブルな仕上がりとなった。渋谷系もSMAPaikoもフラットに吸収した、王道でいて斬新なポップスの有り様がここに。 *澤田 

 

 

paris match PM2 aosis(2001)

筒美京平小西康陽らが参加したソロ作『mariage』も素晴らしかったミズノマリを擁するユニット。スタイル・カウンシルの曲から拝借した名に違わず、2000年のデビューより一環してフェミニンなジャズ~ブルーアイド・ソウル調のAORを送り出している。ここでは比較的に入手しやすい最古の盤=2作目を。 *土田

 

 

藤岡みなみ&ザ・モローンズ はじき Chuo Line(2015)

AORやフュージョンが素となり、都市生活を享受する(もしくは憧れる)メン&ウィメンに響いたのが80sのシティー・ポップだとすれば、こちらはフィッシュマンズサニーデイ・サービスなど、高円寺や下北沢あたりのモラトリアムな空気を孕んだ街から発信されていった、90s的な都市ポップの継承者。 *久保田 

 

 

CICADA BED ROOM para de casa(2015)

UAやACOから掘り下げた音楽性を端緒とする5人組の初作。時折アンビエントな音像を差し挿みつつ、ジャズ~ヒップホップを抑制されたトーンで生バンド化。そのなかで、唯一生々しい温度感を滲ませる女性ヴォーカル――本作を覆うまさに〈ベッドルーム〉な雰囲気のメロウネスを、その歌声が際立たせている。 *土田 

 

 

嶋野百恵 free soul Moe ~Mellow Lover's Twilight Amour~ Knife Edge(2009)

最近はLIBROの作品に登場して麗しさを届けてくれた彼女。無難なところがまるでない歌唱の複雑な甘さは、雑踏でふと顧みる秘蜜のようにメロウで後ろめたい。大沢伸一ブルーイのリミックスも交えてインティメイトな空気に包まれたこの編集盤には、当時の新録となる吉田美奈子のカヴァー“恋は流星”も収録。 *出嶌

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【参考動画】嶋野百恵の99年のシングル“45℃”

 

為岡そのみ MOVIN' ON Village Again(2009)

Jazztronikとの活動でも知られ、裏方としても古内東子から倖田來未まで多様な面々に楽曲提供している才媛の、シンガーとしての処女作。根本にある90年代R&Bの感覚を表出させながら、都会的な情緒と歌謡性を率直な歌声に乗せてくる姿がスマートで美しい。二重の意味でのアーバン・ポップに酔わされる。 *出嶌

 

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