〈生きる〉から〈生きろ〉へ――成長の証として〈肯定〉を表明した2人が臨む、挑戦の舞台。ぽつんと立つひとりひとりが見上げる星空に似合うのは、きっとこんな音楽!

 「野音は自分たちにとってはある種、無理な挑戦で。〈みんなで星空を見上げよう〉っていうイメージがまずあったんですけど、全員でワーッとひとつになるというよりは、ひとりひとりがぽつんといて、でもそれがたくさん集まってるっていう……星空もそうじゃないですか。ひとつひとつの星があって、それが満点の星空になってるみたいなところがぴったりだなと思って」(ハルカ、ヴォーカル/ギター)。

ハルカトミユキ LIFE ソニー(2015)

 ハルカトミユキが10月に日比谷野外大音楽堂で開催するフリー・ライヴに冠した表題は〈ひとり×3000〉。その直前には新作『LIFE』も届けられるが、鮮やかにモード・チェンジを図った前作『世界』がとにかく前進する、〈生きる〉という宣誓の一枚だとすれば、今作から伝わるのは、聴き手をその目に捉えた〈生きろ〉というメッセージ。なかでも〈今、僕は約束をしよう/君の全てを受け入れよう/ひとりで生きる勇気、君に。〉という直截的な言葉がいきなり耳に飛び込んでくる冒頭の“肯定する”は、上述の野音公演のコンセプトを端的に映した楽曲である。

 「“肯定する”っていうテーマ自体は去年の、悩んで制作が止まってた時期の前からあったんですけど、なかなか歌にならなくて、そのまま置いてあったんですね。で、今回もう一度書きはじめたら、気持ちがその頃と違っていて。そもそもは一対一の関係というか、身近にいるあなただけがわかってくれればいいし、あなただけは私を肯定してくれる、っていう気持ちだったんですけど、いまは、例えば野音に来たすべての人に伝えたいし、それぞれに〈この歌は自分のことだな〉って思ってほしいと思ってます。タイトルもそうですけど、歌詞の言葉も剥き出しで。いままでは、ちょっと離れた位置から自分を汚さずに何かを訴えたりしていたのが、今回はもう、どんなに恥ずかしくても、痛々しくてもその姿を見せて……そういうところもすべてぶつけたい、みたいな気持ちなんですよね」(ハルカ)。

 「いままで通りの重たさももちろんあるまま、言葉がどんどんストレートになってきてるなっていうのは感じますね。曲調も、そういう歌詞が届きやすいようにと考えてるから、逆にいろんなことができるようになるなって。今回は振り幅がすごくなっちゃいました(笑)」(ミユキ、キーボード/コーラス)。

 そうミユキが語るように、今作はサウンド面も前作以上にヴィヴィッドだ。学生時代からの弾き語り曲をリアレンジした“September”もあれば、星空を想起させる煌めくシンセやシーケンスが全編に敷かれた“宇宙を泳ぐ舟”“火の鳥”のようなナンバーも。そうした音と呼応する言葉からは7つの死生観が浮かび上がっているが、ラストを飾る“火の鳥”では、それが個人から宇宙へと視点がパノラマ化する。

 「“火の鳥”は、最終的には命の循環みたいなものまで行ってしまって(笑)。すごく身近なところで起こった別れ、と言っていいのかな……の流れなんだけど、手塚治虫の『火の鳥』に〈人間たちよ、次こそは正しく命を使ってくれ〉みたいなワードがあって、それと何か重なる部分があったんですよね。私が生きてることで何かを殺してたり、私が死ぬことで何かを生かしたり、そういう繋がりみたいなのに思いを馳せていて」(ハルカ)。

 野音のステージでは、人も上空の星々も含めた〈個〉を結び付ける触媒となるであろう本作。それにしても、ハルカトミユキの音楽がどんどん開かれている理由はどこにあるのだろう。

 「私は本名の福島遥名義で短歌も書いていて、いままではたぶん、その〈福島遥〉と〈ハルカトミユキのハルカ〉が混ざり合ってたと思うんですけど、そこがはっきり、私の表現する場所は〈ハルカトミユキのハルカ〉なんだと確信できたし、逆に、そうあるべきだという気持ちが強くなった。福島遥だったら言えないけど、ハルカだったら言えることがある。今回みたいに肯定できる。ハルカだからこそ、大きな声で言えているという感覚もあるんです、自分としては」(ハルカ)。

★ハルカとミユキ、フリー・ライヴ〈ひとり×3000〉を開催! 
日時:2015年10月3日(土)
open 17:15/start 18:00/end 19:00
会場:東京・日比谷野外大音楽堂